モンスター
[いぬのえいがひょう] vol.003
モンスター (2003) Monster
買春男たちを殺した罪状で「モンスター」と呼ばれ死刑になった、アイリーン・ウォーノスさんをモデルにした映画。
13歳から17年間、路上で売春を続けてきたアイリーン。
男たちに遊ばれ世間から疎まれるばかりの日々に疲れ果て絶望し自殺しようとしたその夜、レスビアンのセルビーと知り合う。
アイリーンは初めて自分を偏見なく受け入れてくれる相手に出会えたと感じた。
二度と屈辱的な売春はしたくないと思っていたけれど、セルビーと一緒に暮らすお金を手に入れるため、再び道路脇に立つアイリーン。
けれど、そのときの客に殺されかけたアイリーンは客を撃ち殺す。セルビーと暮らしながら、買春男たちを殺しては金を得る。
アイリーンの身体を買う男たちは、彼女のことなど何も知らない。
ただの薄汚い路上売春婦でしかない。軽蔑の対象でしかない。
はじめから見下す対象と決められた者のことなど、何も知ろうとしない。
男たちがアイリーンのことを知らないのとは逆に、アイリーンは男たちのことを知っている。
家庭にいる妻子には隠して売春婦に射精させてもらっている既婚男たち。
アイリーンは性処理の道具。妻や子は、「一人前」の男であるという社会的認知を得るための道具。
嘘でかためることで恵まれた生活を得ている男たちの汚さを、アイリーンは、知っている。
知っているからこそ、思い知っているからこそ憎む。殺すほど憎む。
この構図は、古今東西、繰り返されている。
いつだって、マイノリティはマジョリティのことをよく知っている。
マジョリティは、自分たちが正しいと日常でしつこく語り続けているのだもの。知らないはずはない。
なのに、社会に異議を唱えるマイノリティに対して、マジョリティはすぐ、この社会でうまくやっていくためにはどうすればいいかを諭そうとする。
そんなことは、いまさら言われなくても知っている。どうすれば、この世界で満ち足りた生活を送れるか、知っている。MtM(Male to Male:自分が男であることを疑わず男を自認する男)の異性愛者の健常者になって、社会で共有された偏見を堂々と言い続けていれば、社会のみんなが守ってくれると、知っている。
そんなことはしたくない者と、そんなことはできない者のことを、ならば虐げられて当然と言う。
そんな光景は、見飽きている、聞き飽きている。
いつだって、マジョリティは、マイノリティのことを知らない。
何も知らないくせに、愚かだと、偏見だけは向ける。
いつだって、マジョリティは、マジョリティのことも知らない。
何も知らないくせに、正しいと、自信だけは持っている。
アイリーンはセルビーに「男も女も嫌い。だけどあなたは好き」と語る。
男フィルター、女フィルターで歪めずにまっすぐに他者と接する誠実なアイリーンを、もっと知りたい。
アイリーンのことを、短いニュースを読み飛ばしただけなら「連続殺人犯がいた」、きっとそれだけで済ましてしまう。
見も知らない者のことは、何とも思わない。
だから、アイリーンを、もっと知りたい。
ところで! そんなことより、いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
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