【韓国】知ってるとトクする差別禁止法/人権擁護法

韓国で差別禁止法案が12月4日の国務会議で議決され、最終政府案として確定された。問題となっていた差別禁止項目で削除された性的指向をはじめとする7項目は結局削除されたままとなった。韓国のLGBTの抗議団体は現在でも抗議活動を継続している。政府法案は今後国会に提出され、審議されることになる。
さて、韓国のこむずかしい話を一度箇条書きで整理して、それと関連した先日のシンポジウムの報告を。
●韓国で現在おこっていることおさらい
1.韓国では80年代まで続いた軍事政権が市民の運動によって民主化された経緯がある。
(市民の運動で政権が変わったというのが日本との大きな違い)
2.民主化運動の中であらわれた市民団体や、政治家になった人々のなかに「差別」や「人権」について国のレベルで解決しようという機運があった。
3.その動きによって「国家人権委員会法」という法律ができて、国家人権委員会(以下委員会)が2001年にできた。
4.委員会は陳情を受け付けていてさまざまな権利救済活動をしてきた。
5.6年の歳月を経て韓国国内で罰則をもうけた「差別禁止法案」をつくった。
6.委員会は政府に対してこの法案を政府案としてまとめ、2006年7月24日「立法勧告」された。
(委員会には政府(国務総理)に対して法案を「発議(意見をする)」権限を持っていないため、「勧告」するしかない)
7.勧告されると自動的に法務省が担当して政府法案として提出するように会議にかけられる。委員会案であげられていた20項目の差別禁止要項のうち7項目を削り、その他についても文言の変更をした。
8.この削除された7項目のうちに「性的指向による差別の禁止」も含まれていたため、削除に反対する団体を含めてLGBT団体も抗議活動を始めた。
(この段階で韓国当事者団体から、声明賛同等の要請が日本に送られてきた)
9.削除された理由が特に「性的指向」についてはキリスト教系の団体からの圧力であることが判明した。
10.7項目は削除されたが差別禁止対象の列挙の最後に「その他の事由」という文言が加えられたものが政府法案として議決されて今日にいたる。
●韓国「国家人権委員会」とは?
11月30日に行われた東京弁護士会主催の「韓国差別禁止法案に学ぶ〜日本国内での差別禁止法制定に向けて〜」というシンポジウムに韓国の国家人権委員の一人である鄭康子(チョン・カンジャ)さんの講演があった。
講演は1.差別禁止法制定の必要性、2.制定作業の意義、3.その過程で生まれた悩み、4.経過説明、5.法案の争点について話された。
人権委員会は行政、立法、司法のどの機関からも独立し、政策提言、研究、交流、資料提出、聴聞会などを行っている。
差別禁止法案は人権委員会の設立当初から6年をかけて作り続けられた。その推進委員長を鄭さんがつとめた。法案はNGOの専門者、学者、弁護士、世論の調査により3回のやり直しを経た。
人権委員会の根拠となる法律「国家人権委員会法」では、人権改善のための立法が必要だと判断される場合、政府(国務総理)、国会などに勧告する権限が人権委員会にはある。ただし、法案をつくる権限はないので、勧告された法案(勧告案)もたたき台のようになってしまい、今回のように法務省のなかで勧告案の一部が削除・変更されることになる。独立性を疑問視されるひとつでもある。
●削除・変更の争点は?
鄭さんご自身が最も守りたかったものの、政府法案で変更された部分は「使用者概念」。これは雇用形態が多様化するなかで直接的な雇用契約を結んでいなくても、労働関係があれば全て「使用者」として解釈しようとしたものだ。しかし、労働省の反発にあい、現行の勤労基準法上の使用者概念のままと変更された。代表的な例で派遣労働問題があるが、これは日本でも世界各国でも問題とされはじめている。
また、差別禁止法案で大きく変更されたのは「差別事由」。国際条約を参考にして列挙した性別、障害、年齢、出身国家、出身民族、人種、皮膚の色、出身地域、容貌など身体条件、婚姻、妊娠または出産、家族形態及び家族状況、宗教、思想又は政治的意見、前科、性的指向、学歴、雇用形態、社会的身分、病歴のうちデルタGでもとりあげた通り[→関連記事]病歴、出身国家、家族形態及び家族状況、前科、性的指向、学歴、雇用形態の7項目については政府法案では明示されず、例示規定として処理され、解釈に委ねられるとのこと。会場からの質問で鄭さんの個人的見解としては性的指向の項目が抜けたことについては後退であるが、しかし小さななぐさめとして国家人権委員会法にはその項目が入っているため差別を是正している。また、法案が通過した後でも裁判所により解釈をすることができる。との話をされた。しかし、逆をいうと裁判所で解釈ができなかった場合はそれ自身が前例になり差別が助長してしまう危険性も同時にはらんでいるのではないか。
●地道に、それでいてシングルイシュー化しない
長年、女性運動をはじめとする人権NGOに関わり、「韓国女性民友会」の代表をつとめた鄭康子さん。その後、国家人権委員会設立当初から常任委員に就任し、6年目の今年いっぱいで任期をおえる。落ち着いた物腰で話す眼光はときに鋭い。差別事由が複合的な近代社会の実情で、差別を専門的かつ包括的にみている。
なぜ国家機関でやらなければいけないのか?という問いに「民間機関では事実上責任がなく、直接的な解決行動力がないため。」とこたえた。「権力を監視し、批判する事によって国民の信頼を得るのが民間機関の役目。国家機関は判断する基準をしっかりともつこと。まだまだ荒っぽい基準づくりなのでもっと議論すべき」と話していたのが印象に残った。
●日本では「人権擁護法案」
さて、日本国内では何度か提出されては廃案となっている「人権擁護法案」がある。前回の法務省法案の中では「人種等(人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう)」とある。今月にはいってから再び動きがあると報じられている。[→関連記事:どうなる人権擁護法案(産経ニュース)]
法案は提出されておらず、今期中になにかおこるわけではないだろう。しかし中央人権委員会の設置などのなかに少数者団体の存在の必要性をうったえていくべき点が多数あることには変わりはない。
【関連サイト】
・韓国LGBT抗議サイト(韓国語)
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 【韓国】知ってるとトクする差別禁止法/人権擁護法
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.delta-g.org/mt/mt-tb.cgi/78





















コメントする