カッコーの巣の上で

[いぬのえいがひょう] vol.011
カッコーの巣の上で
(1975) One Flew Over The Cuckoo's Nest
ある民放テレビ番組で、村の過疎化を食い止めた、ある村の村長へのインタビューを放送していた。
彼の「私」という一人称での語りは、テロップでは「俺」に変えられていた。
それとは別の、火災から乳幼児を救ったかたのニュースでも、彼の言っている「僕」が、テロップはやはり「俺」に変えられていた。
わざわざ言葉を改ざんしてまで、望ましい行いを男言葉に、男性性に結びつけたいのでしょうか。
ケン・キージー著の原作小説『郭公の巣』(※現在邦訳は『カッコーの巣の上で 』に改題されています)は、権力に管理された環境で自我を持って生きるための反骨心を、ドラマティックな物語の中で痛みと共に気高く描いていた。
刑務所の強制労働を逃れるために精神疾患を装い、精神病院に入院したマクマーフィ。
彼は、生気を失った他の入院患者たちの姿に驚き、患者に対して絶対服従を強要するラチェッド婦長に反逆してゆく。
心を閉ざし言葉を発しないことで聾唖と思われていた入院患者のチーフは、マクマーフィの反抗を間近で見て、活力を取り戻してゆく。
登場人物たちの立ち位置は単純ではっきりしている。
自分たちの考える秩序を絶対的価値と信じ、他者の自由を奪うことで秩序の維持を図る圧政者。
そして、その監視下で、死んだように生きる者たち。
そして、その不平等社会のおかしさに気付いて行動する者。
加害者と、被害者と、その社会に抗う者。
古くは『メトロポリス』から、『アラバマ物語』、『紳士協定』、『ガンジー』、『遠い夜明け』、『善き人のためのソナタ』などなど、古今東西、虚実のどちらを描いた映画でも語られ続けてきた対立の図式。
もっと遡れば、ローマ帝国の圧政に苦しむユダヤ教徒の前に現われた救世主の物語『新約聖書』もこの図式だった。
それらの作品の主人公の男に共通して見られる特徴がある。
まったく男らしい立ち居振る舞いをしないのだ。
彼らがもし男性性推奨の環境で生活していたらオカマとなじられてしまいそうだ。
マッチョ男が支配しイジメが行われている学校などにいたら、キリストもいじめられていたに違いない。
キリストは、クイアだ。
それらに対して、映画版『カッコーの巣の上で』はどうなのだろう。
ラチェッド婦長は精神医学という社会から与えられた権力に基づき、入院患者たちを抑圧する。
しかし、ジャック・ニコルソンが男性的な立ち居振る舞いで演じたマクマーフィも、ラチェッド婦長と同じように権力の濫用を行っている。
マクマーフィは、婦長のやり方を人間性(彼にとってのそれは男性性である)を破壊するものと捉え、男性性という社会から与えられた権力に基づいて患者たちを導くのだ。
もしラチェッド婦長が男だったら、男らしい外面と振る舞いを身につけた粗野な男だったら、どうだっただろう。
マクマーフィが、フェミニンな外見のレズビアンだったら、この映画はどういう扱いを受けていただろう。
むしろ、そのほうが、より強大な権力に立ち向かうより力のない者、力の差が大きい方が映画的なカタルシスをもたらすには良いと思われるが、そうはなっていない。
この映画は、自由の意味を謳い上げた映画として広く支持されているが、マクマーフィのそれは自由なのか。
男らしさという、この社会で精神医学よりも広範に推奨される権力を後ろ盾にした振る舞いの様式。
そこが共感を得て支持されているのではないか。
反権力が、批判する権力よりも強大な権威を背後につけている。
この映画版が、原作と決定的に違うのはこの点だ。
男性性に結びつけてのみ、正しさを認めるかたがたがいる。
男性性に結びついた途端、正しさが自己癒着を引き起こすこともあるというのに。
正しさを語るとき、「私」を「俺」に、「僕」を「俺」に、マクマーフィをマッチョに、改ざんしたがるかたがたがいる。
男性性に結びついた途端、正しさが自己癒着を引き起こすというのに。
ところで!そんなことより、いぬかわいいよー!いぬってすてき!わんわん!
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【関連情報】
映画「カッコーの巣の上で」
出演: ジャック・ニコルソン, ルイーズ・フレッチャー, ディーン・R・ブルックス
監督: ミロス・フォアマン
制作年:1975年
制作国:アメリカ
言語 英語
時間: 133 分
小説「カッコーの巣の上で」(単行本)
著者:ケン キージー(Ken Kesey)
翻訳:岩元 巌
単行本: 515ページ
出版社: 冨山房 〔改訳新版〕版 (1996/06)
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