
[いぬのえいがひょう] vol.012
サラエボの花 (2006) Grbavica
ボスニア・ヘルティゴヴィナの首都サラエボで12歳の娘サラと暮らすエスマ。
政府からの補助金と裁縫で得る収入だけのぎりぎりの生活。
サラは、ボスニア紛争時にエスマが兵士に監禁され強姦され続けた時に身ごもった子供だったが、エスマには本当のことは伝えず、父親は戦死したと伝えていた。
この地域では、男の戦死は名誉でシャヒード(殉教者)と褒め称えられる一方、女が男に強姦されるのは女側の恥、とされるらしい。
サラの学校で修学旅行に行くことになった。
シャヒードの遺児は父親の戦死の証明書があれば旅費が免除されるので、「証明書を持ってきて」というサラ。
エスマは、証明書の件は誤魔化しながら、修学旅行に行くためのお金を工面するためにナイトクラブで働きはじめる。
目を閉じ静かに身を寄せあって癒しあう女たちの姿。
そこは、痛みを分かちあう集団セラピーの会場。
セラピストは「どうか口を閉ざさないで。話したくないのはわかるけれど、言葉にして悲劇を共有することで痛みは癒えるの」と語る。
痛みを抱えた女たちを絵画的な美しさで綴る冒頭は、映画のその先を期待させる。
エスマは、過去の体験のせいでどうしても男の性を感じる姿に恐怖を感じてしまう。
混み合う通勤バスの中で隣にいる男の胸毛を見て、身体が震え出す。
ナイト・クラブの売れっ子ホステスをいやらしく触る男客を見て嘔吐しそうになる。
過去を想起させるのに充分な抑えた描写が上手い。
サラはイスラム・ジェンダー下のおしとやか女子の中では、際立ってアクティブ。
サッカーをしているときに「女がサッカーしてんじゃねーよ」と突き飛ばしてきた同級生サミルに飛びかかってやり返す。
性差を相対化してゆく視点を持った作品かと期待させる。
ところが。
この後、何故かエスマはナイト・クラブのオトコオトコしい同僚ペルダと、仲良くなる。
エスマもペルダも戦争で父を亡くしたことが、仲良くなるきっかけ。
一方、サラはサミルと仲良くなる。
お互いの父がそれぞれシャヒードだったことが、仲良くなるきっかけ。
エスマは、妊娠中はお腹の子を流産させようとお腹を叩き続けた。
生まれても顔も見たくないと思っていたが、泣き声を聞いたとき、一度だけ母乳をあげたいと思った。
そしてエマを腕に抱いて「こんな美しいものがこの世にあるのだとはじめて知った」と言う。
これは一体何だ。
ボーイッシュ女も男が好きなんですよ。異性愛者の男女の皆様、共感してあげてください。
過酷な性的虐待を受け男性を恐怖する女も男を求めていて、母性(幻想)を身につけているんですよ。異性愛者の男女の皆様、共感してあげてください。
そういうことでしょうか。
もちろん、この映画で描かれたようなことも、現実にあるでしょう。
実際にエスマのみたいなかたが、男と付き合ってもいいでしょう。
エマみたいな女子が男子とツンデレ恋愛してたっていいでしょう。
これが実話そのままの映画化なら、それでいいと思います。
でもこれは、ボスニア紛争で数多くの長期監禁強姦が行われた事実に基づいた映画ではあるけれど、特定の誰かをモデルにしているわけではなく、エスマもエマも、この話のために設定されたかた。
男性の性暴力とそこからの立ち直りを描くために、製作者が最善と考えて造ったキャラクターなんでしょう。
こんなふうに「女性性」をアピールすれば、広く話が通じやすいのでしょうか。
けれど、ヘテロ当然視と母性信奉も、性暴力の形態のひとつと言える。
製作者が性暴力について色々熟考しているだろうことを考えると、これは中途半端すぎる。
子供嫌いのレズビアンを主人公として同じ状況に置いて描いたら、もっとテーマの核心に踏み込めそうなのに、勿体ない映画。
映像表現やお話の紡ぎ方が美しいだけに、余計、勿体ない映画。
ところで!そんなことより、いぬかわいいよー!いぬってすてき!わんわん!
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