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リセット機能としての生活所作

2008年1月 5日 04:40 クマ
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[ネタバレ上等! クマのショヒョウ 002

きのう何食べた? (1)』(よしなが ふみ 2007、講談社)

 

空腹時に読むと発狂しそうになり、そうでないときに読んでも買い出しに出かけてそのまま厨房に立ち料理をしたくなる本。クマはもともと「おうちご飯」派なので、読むと行動を促進されてしまうのー。『愛がなくても喰ってゆけます。』で紹介されてる食いもの屋も片っ端から制覇したくなる。よしながさんの食い物マンガは、「書を捨てよ、町へ出よ」じゃなくて、「書を持って町へ出よ」と言われている気がする作品ばかり。


主人公のシロさんは共同事務所に勤める弁護士だけど、残業はせず定時にきっちり退勤し、いつも自宅で食事をつくって食べる、パンクチュアルでエコノミーな生活をモットーとするナルシストさん。けっしてアットホームでほのぼのしたキャラクターではないの。商品の底値を知りつくし、スーパーの特売品をのがさずゲットするさまは一種殺伐としており、ハンターといっても過言ではない。

 

この漫画の秀逸な点は、ひとりの人物が賃労働(社会活動)と衣食住生活(個人的活動)の両方にきちんとコミットしているところ。社会活動に偏りすぎれば私生活がなおざりになるし、私生活に傾きすぎれば社会活動から疎外されてしまう。

 

でもこれがゲイではなくレズビアンの設定だったらどうかしら? ストレートな性役割分担からいえば、「女は炊事洗濯掃除ができて当たり前」だし、第1話のシロさんのように昨日の晩ご飯の献立をスラスラ言おうものなら、「そんなに料理ができるのになんで結婚しないの?」とか、「今度オレにも食べさせてよ」とか、いけ図々しくて不快きわまる応答が返ってきそうだから、ベーコン封じとかしなくちゃならなくなるので、結局は私生活に傾きすぎて社会活動から疎外されがちになるんじゃないかと心配になります。トランスの設定だったらそもそも「きのう何食べた?」なんて話すら振ってもらえないんじゃないかと身も蓋もないことを考えたりして。

 

もとい。

 

史郎さんの同居人(恋人)であるケンジさん(美容師)が尋ねる。「シロさんてさ…何つーかお金好きだよね…この部屋だって家賃10万ぽっきりでしょ? 弁護士ってじゃんじゃん稼げる仕事なんじゃないの?」

 

シロさんいわく、「そりゃ大手の渉外事務所なら確かにじゃんじゃんだけど、死ぬほど働かされて実際の時給はコンビニのバイト並みなんてヤじゃん。それよかそこそこの収入で人間らしい暮らしの方がいいわけよオレは。それに金が好きで何が悪いよ? 子供に面倒見てもらうなんて未来の無いゲイが頼りになんのは金だけだろが」。

 

はい。クマもそう思います。つか、クマも仕事が入ると寝食忘れて没頭してしまうワーカホリックなだけに反省しきり。シロさんのようなオフィスワーカーとクマのようなルンペンを同列に語るのは難しいけれど(だって時給に換算したらこっちは3桁切っちゃうかもしれないし/汗)、仕事やらなんやらで煮詰まると、時間帯問わず発作的に台所に立ち、天啓を受けたかのごとく(おおげさ)その場にある食材や調味料類を即興で組み合わせ、フリージャズセッションのように料理をつくってしまいます。

 

料理しているあいだは無心になれる。「料理」の代わりに「ヨガ」でも「マラソン」でも「将棋」「カラオケ」「レース編み」「ガンプラ作り」でもなんでもよいのだけれど、クマにとってもっとも身近なリセットツールは料理だったりするので、「仕事で案件をひとつキレイに落着させたくらいの充実感を一日に一回も味わえるなんて夕飯作りって偉大だよ」というシロさんの脳内独白には大きく頷くほかない。

 

リセットとは、ぐちゃぐちゃこんがらがったりくすぶったりして一種の緊張状態にある自分の精神や身体をリリースすること。これやらないと、心身ともに極限状態に陥っているのに自分ではぜんぜん気づかないまま没頭してしまうので、あるときばったり倒れてしまったりして、かえって仕事の効率が悪くなって面倒なことになる。

 

クマにとっての料理は、適度な集中とテンションを保ちながらもリラックスしている状態をつくることができる作業。禅宗の修行僧を雲水と言いますが、かれらの修行のなかにも典座(てんぞ)という飯炊き修行があります。というか、掃除したり、洗濯したり、料理したりという日常生活の所作をきわめることに、修行(もっといえば悟り)のキモがあるのではないかとすら思います。もちろんお経を読んだり座禅を組んだりする修行もありますが。

 

たぶん、これが専業主婦の務めとなると、毎日同じことの繰り返しでウンザリしちゃって、張り合いがなくなって惰性的になって手抜きしたりするようになるんでしょうね。だってバランスとれてないもん。せめて家事のほかにもうひとつくらい、別なことに頭や神経使う機会を並行して持たないと。

 

ちなみにクマは最近ヨガをはじめましたが、ヨガとはサンスクリット語で「結合」という意味だそうで、ふたつの相反する要素のあいだでバランスをとる、そのふたつを結合する行為をヨガと呼ぶのだそうです。

 

このショヒョウを書くにあたってamazonのレビューをちょっと参照したのだけれど、「すごくフツーで、おしゃれで」とか「ほのぼのとした」とか「なんでもない(*引用者注:お家ごはんを家族と食べる)ことの中にあるあったかさをしみじみ感じる作品」とか「所帯染みてて」とか、参考にならなさすぎてモチベーションが下がりそうになりました。こういう読みかたをするかたたちって、きっと料理の持つリセット機能というものにピンとこないんだろうなー、自力でもたらす「癒し」の厳粛さと充実感とも無縁なんだろうなーと。上から目線? ええ、そうですとも。

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