濁流

[いぬのえいがひょう] vol.016
濁流 (1934) Born to Be Bad
面白さには文句をつけようがない映画だ。
短い上映時間の中で二転三転し続ける物語。
先を全く読めない展開にはらはらするのが好きなかたは、以下を読まずにまずは映画を観てください。
映画作品としての面白さ、完成度はかなり高い。
テンポの良すぎる語り口と完成された映像に引き込まれることでしょう。
夜毎違う男とナイトクラブに現れる美女。レティは、素行の悪い少年ミッキーと暮らすシングル・マザー。男から貢がれた金で暮らしながら、ミッキーに「他者を騙して利用する」世渡りの術を教える。
レティがそのように考えるようになった切っ掛けは、ミッキーを妊娠した途端、男に捨てられたという出来事。
男に捨てられ行き場をなくしたレティを匿ったのは、親切な本屋のファジー。
ファジーは男に貢がせて贅沢三昧に暮らす現在のレティを苦々しく思っている。
ある日、ミッキーが車にぶつけられる。
車の持ち主である富豪のマルコム・トレヴォーは、すべての事故の補償をすると言う。
しかしレティは、ミッキーが怪我のせいで足が動かなくなったことにし、多額の慰謝料をせしめようとする。
そうすれば、夜毎男と出歩かなくても生活費に不自由しない。ミッキーは、大好きな母親といつも一緒にいられることになると考え喜んで嘘をつく。
しかし、その嘘は弁護士に簡単に暴かれてしまう。
子供に嘘をつかせる親は親の資格はないと、裁判所命令でレティは親権を剥奪され、ミッキーは孤児院へ。
マルコムは、子供が欲しかったが妻アリスとの間には子供が出来ずにいたことから、孤児院に出向きミッキーを養子として引き取る。
そこへ現われたレティ。彼女はマルコムを色仕掛けで誘惑し性関係を持つ。不倫をネタに脅迫することが目的だ。
しかしマルコムはレティとの情事をアリスに包み隠さず話し、レティを好きになったので離婚してレティと再婚すると言いだす。
アリスは夫の希望を受け入れ離婚することにするが…。
他者を騙す利己的な人々ばかりの社会で誰も信用しなくなっているけれど心の底では親密な優しさを渇望しているレティとミッキー。
そんな社会を百も承知の上で、それでも清貧な生活を続けるファジー。
恵まれた環境で育ってきたため、施しをためらわないマルコムと、他者の意思を尊重することだけで暮らす妻アリス。
一見、すべてのキャラクターが性善説に基づいて造型したかに見える。
レティとミッキーの悪事もまた、愛の渇望の裏返しだ。
妻アリスは夫マルコムの心変わりに寛容だ。
その寛容さは、子供が出来ないという、家父長制向けの商品価値の欠陥による、後ろめたさがあったかもしれない。
しかし、恋慕の情は冷める。冷めてしまったものは仕方がない。
彼の心が離れたら割り切って身を引くのは、単に、冷静で妥当な判断と言える。
マルコムには悪意がない。誰にも嘘をつかない、裏表のない有り得ないほどの正直者と描かれる。
しかし、それは男にだけ認められた特権ではないか。誠実さという特権。
気持ちに誠実とはいっても、アリスと結婚している。これは米国の話なので一夫多妻制の結婚ではない。性愛関係を夫婦間でだけ行うという契約違反。
それに対しては、男なら誰でもレティの誘惑には負けるものだという言い訳。
もしそうならば、そのように「男」である者は、結婚などしなければいいのに。
一方、レティの行動は、悪事として描かれる。
貧乏は嫌だ、騙されるのは嫌だ、騙されるくらいなら騙してやる、と、金を求めるレティの正直さは責められる。
色仕掛けの誘惑は、脅迫が目的だったというものの、結果としては、セックスしましょうと言って、セックスをしただけ。誰も騙してはいない。
夜な夜な男と出歩くのも、デートをしてあげてお金を貰っているだけだ。
特定の男とだけ交際する約束などは誰にもしていないので、結婚詐欺のような類のことではない。
お金をあげますと言われ、お金もらう、レティの素直さ。
セックスしましょうと言われ、セックスする、マルコムの素直さ。
清貧を気取る本屋のファジーが軽蔑されずに清貧を行えるのも、彼が男だからではないか。
優しく温厚で誠実でいられるということも、男の特権なのだ。
優しい男は、特権を振りかざす。
威張った暴力男も、もちろん、特権を振りかざす。
まあ、そんなもんでしょう。
男の人を自認する男。
そんなずるい真似をするかたが世にうようよいるのは何故なのでしょう。
何故って、ずるい真似をするのは、ずるいからですね。
ずるいから。そこのあなた、ずるいから。ほらそっちのあなたも、ずるいから。
ところで! ずるいいぬはいない! いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
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