アイリス

[いぬのえいがひょう] vol.028
アイリス (2001) Iris
1950年代、オックスフォード大学。頭脳明晰なアイリス・マードックに恋をしたジョン・ベイリー。
恋愛経験豊富なアイリスは、複数の恋人と付き合いながら、ジョンの純粋さに惹かれていく。
やがて本当の自分を理解してくれる人はジョンだと気づいたアイリスは、彼と共に暮らすようになる。
その後は次々と小説を発表し、一流の作家になるアイリス。ジョンは輝き続けるアイリスを、心の底から敬愛していた。
アイリスとジョンはいつものようにスーパーマーケットで買い物をし、いつものようにパブに寄る。
そんな折、楽しんでいた「言葉遊び」で、アイリスは同じ言葉を二度口にする。普段らしくない自分の言動にハッとするアイリス。
執筆活動にも集中力を欠くようになってくる。いつものように言葉を紡いでいくことできない。単語の綴りを忘れてしまう。
明らかに自分の中に異変を感じ、戸惑うアイリス。そんな彼女を励ましながら支えるジョン。
やがて二人は、彼女がアルツハイマー病に侵されていることを知る。
ながいあいだ、奔放なアイリスにジョンは当惑していた。
すべてを率直な言葉で語り尽くそうとするアイリス。
けれど、アイリスの饒舌な言葉についていけないジョンは、アイリスの世界からのけ者にされた気分。
それでも「すべてを知っているのはあなた」と語るアイリスを受け入れ続けるジョン。
わからなくても、信頼しあっていく。
「言葉にはいつも表現しきれず抜け落ちるものがあって、言葉はいつも嘘になる」とアイリスは、しかし、それを嘘に開き直るための言い訳にはせず、逆に、嘘を嘘のまま放置させないために、より言語化を追求した。
言葉を失った、アイリスの瞳が印象的。
映画では、過去の回想が随時挿入されて、そこではっと気付く。
饒舌に言葉を駆使していたときも、アイリスはずっと同じ瞳をしていた。
アイリスは、ジョンに好意を寄せて、じっと見る。
言葉を失って、その視線が目立つようになったけれど、ジョンに向けるアイリスの視線は以前と何も変わってはいない。
現象や心境の言語化を模索したアイリスは、言葉でないところでも、素直な表現を行おうとしていた。
言葉でも、言葉でなくても、定型的な表現を越えて、表現を解き放つ。
言葉を持っていたときも、言葉を失ってからも、じっと見る。
いつだって、アイリスはジョンをじっと見ていた。
この、じろじろ見る好意の視線、ヒトは、滅多にしない。
気の立った喧嘩好きの不良は、見つめられると「ガンつけた」などと言う。
その視線に悪意は全くないと言っても耳を貸さず、たったひとつの解釈の関係に閉じこもる。
アイリスの視線は、ひとつの解釈だけで収まろうとはしないが、その解釈の多義性は複雑なものではない。
ただ、じっと見る、じっと見る。
それだけの、アイリスの、いくつもの、数え切れない、好意。
犬は、好意を向けている相手を、ただ、じっと見る。
言語認知の検査を受けたとき、アイリスは「DOG」を「GOD」と読む。
発声する言葉を失っても、じっと見る、じっと見る、アイリスの犬の言葉は、最後まで生き続けた。
いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: アイリス
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.delta-g.org/mt/mt-tb.cgi/288





















コメントする