[ FTM高校生日記] ルール3
ルールその3: FTMはあまずっぺー!
おれってあまずっぺー! やぁ、おれだよ。いやぁ、もう甘酸っぱくてたまらないね。何がって? 『ラストフレンズ』だよ。みんなも見てるかな? おれは普段テレビとかドラマなんて見ないんだけど(だってそんなの、男らしさに欠けるから……)、この番組だけは毎週欠かさず見てるんだよ。
で、このドラマってのが、上野樹里がFTMみたいな役で出ているわけでさー。まさに自分を重ねてみてしまうわけだよ。おれは樹里よりは、もう少し硬派な男子かなって思いながら見てるんだけど、樹里が長澤まさみに片思いをして、切なくなってるのを見ると、おれまで切なくなっちゃってね。なんだか、こうセンチメンタルになるわけよ。
(あ、センチメンタルなんて恥ずかしい)
だから、センチメンタルになったついでに、今回はあまずっぺー話をしようと思うんだ。「憧れ」の話だよ。ウフフ、「憧れ」、なんて恥ずかしい。でもね、硬派なおれとしての「憧れ」があるわけ。だから、今回も最後までつきあってみてよ。
「憧れ」。おれが憧れているものはいくつかあって、学校で女の子たちが飲んでいる「紙パックのリプトンの紅茶」と「無印良品の文房具」あたりがそれにあたる。自分が飲んだことのない未知のレモンティー、素朴で清純な感じのする文房具、そういうものに、限りなくどきどきしちゃう。なおかつ、自分は絶対に「リプトンの紅茶」や「無印良品」には手を触れてはならないと思っているんだ。
隣の席のHさんはバトミントン部で、筆箱の中にたくさん清純な文房具が入っていて、つぶれたカバンには「リプトンの紅茶」が入っている。それだけでおれはもう、この上なくたまらない気分になる。あ、あまずっぺー!! Hさんが特別に好きだってわけじゃなくて、クラスのKちゃんやSさんだって、同じだ。清純で少しつぶれたカバンに、清純な文房具が入ってるわけ。おれはKちゃんもSさんも好き。というか、清純な文房具を持っていれば、たいていの女の子は好き。清純な文房具をもっていれば、リプトンの紅茶を飲んでいれば、そのひとはきっと、素敵なこころをもった人だとおれは信じてやまない。
でね、おれは高校でバンドをやってるんだ。ギターがひとより弾けるんだわ。それで、清純な文房具をもった女の子たちに、彼女たちが好きな音楽を弾いてあげるときが、一番生きていてよかったと感じる。あとは、数学の問題を「わかんない、教えてくれない?」と聞かれたときが、もうたまらない!! もらった清純なルーズリーフに、びっちり数字を並べて、歓喜きわまる答案をかいてやるんだ。歓喜をぶちまけてやるんだ。清純なルーズリーフの、端から端までびっちりと数字を、歓喜を埋め尽くしてやるんだ!!
……ゼェゼェハァハァ。
(息が荒いだなんて恥ずかしい)
そんなおれは、全然清純ではないから、無印良品も、リプトンにも、触れてはならないんだと決めている。それが、おれの「憧れ」なんだよ。
参考までに。他に神聖なグッズたちは、彼女たちが持っている傘(傘ならなんでも)、腕につけているゴム、制服の上にきるセーターのよれよれ、ヘッドフォン、靴下、CDウォークマン、眼鏡ケース、つめ。
でも、聞いてくれ。おれはどうやら、「数字をぶちまけるだけ」では物足りなくなっちまったようなんだ。新しくバンドを組んだと同時に、おれは恋に落ちてしまったようなんだよ。詳しくは次回に。
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イラスト:渡部 文
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