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ドッグヴィル

2008年5月30日 10:00 いぬ
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[いぬのえいがひょう] vol.033

ドッグヴィル (2003) Dogville

 

床に描かれた線といくつかの壁や家具などの簡易なセットの上で演じられる、「社会」という幻想概念の普遍的な寓話。

セットの一部として白い線で描かれた犬のモーゼスは、2003年の第3回パルムドッグ賞(※注)を受賞した。

不況の嵐が吹き荒れる時代のある日、ロッキー山脈の山あいにある寒村ドッグヴィルにやってきたグレース。

ドッグヴィルで、グレースとはじめに出会ったのはモーゼスという鎖に繋がれた犬だった。

お腹をすかせていたグレースは、モーゼスが大事にしていた骨を奪おうとする。

モーゼスは唸り声をあげてグレースを追い払う。

 

次にグレースを見つけたのは、村の人々を倫理的に正しく導くことに情熱を燃やすトム。

グレースがギャングに追われており行き場を探していることを聞いたトムは、グレースをドッグヴィルに匿うことが、村民たちに善意を教えるのに最適と考える。

トムの思惑通り、ドッグヴィルの皆のために身を尽くし賢明に働くグレースは、村民たちの信頼を得、村民たちにそれまでの鬱屈した日常とは違った刺激が与えられる。

しかし、彼女の存在に慣れた頃から、村民たちは少しずつグレースの弱みを利用しだすようになり、やがて、傲慢な欲望のはけ口としてグレースを隷属させるまでになってゆく。

 

モーゼスは、繋がれたまま、骨をかじっている。

 

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全編、ジョン・ハートによるナレーションがドッグヴィルで起こっていることを解説していく。

はじめのうちは、スクリーン上で起こっていることとのズレはないが、村民が隠した欲望を露にするに従って、村民たちとグレースの、現実を解釈する立ち位置の距離が開いてゆく。

それにあわせて、劇中に登場する誰でもない神の視点のナレーションは客観性を装うことを放棄し、スクリーン上で見えていることすら見て見ぬふりを決め込み、見えていないことを断言して語るようになる。

 

そうして、様々な解釈が配置され入り乱れるが、それは不協和をもたらすものではない。対立する解釈が並列に置かれているわけではなく、重層的に配置されているためだ。

この村では、常に誰が誰の上で誰が下なのか、どの場面でも事細かに確認しあいながら、互いに相手より優位に立つことを狙い合っている。

 

果樹園の主のチャックは、グレースの身体を欲する。

林檎を収穫しながら、熟れた果実からグレースの肢体を想像し欲情する。

グレースは、林檎の収穫をすることは、村に溶け込むための仕事のひとつ。

後に、チャックはグレースを脅迫し、強姦する。

脅迫の下では、林檎の果実とは何かという解釈をする権利はグレースにはない。

 

グレースはドッグヴィルの中で、絶対的に下の位置があてがわれる。

グレース自身もその位置こそが自分の信じる善意の証明と考える。

従属こそが善意の証。善意で行動することが、善意を広める最良の手段。

善意の証明のために、搾取され、虐待され、村民たちの間の関係で優位に立つための道具として利用される。

 

最終的には、逃げられないようにと鎖と重しをつけた重い首輪をつけられ、冷えた小屋に閉じ込められ、労働を強制され、中傷を受け、強姦され続けるまで墜とされてしまう。更に、唯一の理解者トムにも裏切られる。

そうなるまで、グレースは善意を諦めはしなかった。

 

モーゼスは、繋がれたまま、骨をかじっている。

 

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村民たちは皆、暗黙にグレースを奴隷化することに同意していた。

その集団の同意という権力を背後につけてグレースに牙をむいた他の住民たち。個と個との関係など、そこにはない。

常に集団の権力の監視の目を気にして、権力の同意を得るか権力の目の届かないところで物事を行う。

誰も、グレースを見てはいないのだ。自分が安泰でいることしか見ていない。

グレースの善意の言葉など、はじめから聞く耳を持っていない。

 

そういうグレースも、自分しか見ていなかった。

他者を尊重し自分を犠牲にすることは、はたして、善と言い切って良いことなのか。

自分が虐待されて耐え忍ぶことは、虐待が起きる環境が作られることへの協力ではないのか。

 

モーゼスは、繋がれたまま、骨をかじっている。

 

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手酷い虐待を受け利用され続けても、村民との関係をなかなか諦めなかったグレース。

しかし、ドッグヴィルではじめに出会ったモーゼスとの関係は、一度唸られただけで諦めてしまっている。

モーゼスがグレースに向けた牙だけは、他の村民の牙とは違い、唯一、権力が介在しない個対個の関係のものだったというのに。

グレースの言葉を聞くことが出来たのは、モーゼスだけだった。

肉をとりあげたことで憎まれたなら、肉をあげたら、モーゼスはグレースへの敵意を簡単に撤回したかもしれない。グレースは、人との関係性の構築の努力は惜しまなかったが、犬との関係性はすぐに諦めた。村人たちの言葉は誰のどれも、いつも権力を参照していて、その人自身の言葉は、どこにもなかった。

グレースも、人しか見ていなかった。権力としての人である人に、倫理としての人の言葉が届くと思っていた。

村民たちの暴走を受け入れた自分の善意は傲慢だったと、グレースは倫理ではなく論理で気付き、骨をかじっているモーゼスを見る。

 

人が言葉をなくしたドッグヴィルには、犬モーゼスの叫ぶ言葉だけが響いた。

いぬかわいいよー! いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!

 

※注 パルムドッグ : 2001年よりカンヌ国際映画祭で行われている、出品作品の出演犬に与えられる非公式の賞。賞の名前Canine Palm Dogは、カンヌ最高賞Cannes Palme d'Orのもじり。

 

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【関連サイト】

公式サイト

ドッグヴィル スタンダード・エディション

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