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告発のとき

2008年7月 4日 10:00 いぬ
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[いぬのえいがひょう] vol.038

告発のとき (2007) In The Valley of Elah

 

200411月、アメリカ。イラクへの派兵から帰還してすぐに失踪したマイク・ディアフィールド。無断での離隊は重罪とされている。
マイクの父であり退役軍人のハンクは、軍人一家に育った息子が無断離隊するなど有り得ないと信じる。
数日後、マイクは、軍警察の管轄地域でバラバラ死体として発見されるが、軍警察捜査に及び腰。ハンクは単身で聞き込み調査をはじめる。

ハンクは、刑事エミリーの協力を得て、事件の真相に近づいてゆく。
シングル・マザーのエミリーは、地元警察でそれなりの地位を得ているため、男警官ばかりの署内で孤立しており、つまらない事件を押し付けられてばかりいる。
男警官たちにとって、つまらない事件とは、動物虐待の事件。
鶏の眼球をえぐって、鶏に必要以上の苦痛を与えて楽しむ屠殺業者。
「父が、なつかないドーベルマンをバスタブで溺死させた」と警察に駆け込んでくる若い女。
犬を殺害したことでの立件は難しいと警察は取り合わないが、ドーベルマンを殺した父は、自分の娘も溺死させる。

やがて、マイクたちが、イラクで捕虜を虐待していたことが明らかになる。

マイクは、現地の幼い子供を轢き殺したことで精神的に追い詰められ、その恐怖から、捕虜の虐待を行うようになった。

 

残酷行為に慣れれば慣れるほど、簡単に暴力をふるえるようになる。

アメリカ軍人としての誇りを持つハンクは、共に闘った同士を殺す兵士などいない、敵を虐待もするし殺すが味方は守るものだと思い込んでいた。
だが、マイクを殺したのは同僚の兵士だった。

攻撃欲の向かう先を運動に向かわせ、欲望を昇華させるものとして、スポーツは奨励されると言われることがあるが、これは、行為遂行によって規範が自己言及的に、規範自身を形づくることを想定していない。

チームに分かれて競い合うことによって、他者への残酷さを身につけることが出来るからこそ、戦争の推進者はスポーツを支持する。

繰り返し行われることで、行為は実感を伴ってゆく。

スポーツを行い続けることで、戦地で敵を殺害することに抵抗がなくなる。

イラク人を虐待し続けることで、アメリカ人も虐待するようになる。

 

行為遂行性によって形作られるものといえば、男であり、女である。

男が男であることで、女が女であることで、戦争を支持できるようになる。

 

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原題にある、“Valley of Elah”(エラの谷)は、イスラエル王サウルの息子であるダビデ少年が、イスラエルの脅威である巨人ゴリアテと戦った場所。

軍人男ハンクは、エミリーの子デビッドに、聖書の逸話を、恐怖を克服する男の話として、寝物語にする。

これは、ダビデに対してではなく、ダビデを一旦、男という概念にカテゴライズし、その概念に対して感情移入する、ダビデの意思を無視した、ねじ曲がった解釈。

デビッドはとエミリーは後で「ダビデは怖かったよね」と語り合う。

これは、ダビデに感情移入した、シンプルな解釈。

ダビデに関する解釈は、映画の中で、マイクを戦地に行かせた父ハンクの内省とも重なっていく。

どちらの解釈にしても、他者の顔は無視されている。

ゴリアテの顔、轢き殺された子供の顔、虐待されたイラク人の顔は切り捨てられ、ダビデやマイクに対してのみ同情的だ。

 

そして映画は、罪のない犬や娘を殺した父親よりも、虐待や虐殺を行ってきたマイクの死をメインに据えて、マイクを甘やかす。

どさくさにまぎれに、命のヒエラルキーを固定する。

アメリカ軍人男>アメリカ男>アメリカ白人少女>イラク人子供>イラク人大人>犬

 

犬を殺す人間男は、人間娘も殺す。
イラク人間を殺すアメリカ人間男は、アメリカ人も殺す。
女を疎外する人間男警官たちは、何故か人間男を疎外しない。
人間男だけは、ひたすらに、甘やかされている。

映画の最後、アメリカ軍人としての誇りを撹乱されたハンクは、アメリカ国旗を逆さに掲げる。
国旗を逆さに掲げるのは、八方塞がりの状況を示す救難信号だという。

警察署内での男たちの横暴。犬と娘を殺す父親の暴力。マイクたち兵士の暴力。

男の自省ナルシズムである逆さ国旗の映像のインパクトで、マチズモに端を発するそれらの問題はぼかされる。

 

本当に八方塞がりであるのなら、国旗を焼き払った煙で救難信号を発すればいい。

国旗を逆さにするくらいの程度の軽い危機を、世界の終わりのように言う、アメリカ男の危機感は大袈裟だ。

 

軍人たちにとって、恐怖から虐待や虐殺に走ることを、恐怖の克服。

男にとって、男でなくなることの恐怖から、男でないものを蔑視することが、恐怖を感じない男であることの証明。

 

そんな自己矛盾の男たちのために、

犬の、イラクの、女の救難信号は、虐殺されてもなお、踏みにじられる。
人間の、アメリカの、男の大袈裟な救難信号は、大袈裟に同情されている。
人間の、アメリカの、男の大袈裟なナルシズムは、甘やかされ続けている。

そんな中で、男の甘ったれたナルシズムを与えられていないエミリーだけは、マチズモの仕組みとまっすぐ対峙していた。

エミリーを演じるのは大の愛犬家のシャーリーズ・セロン。

この映画、シャーリーズの出ているシーンだけが好きだ。

 

ところで! そんなことより、いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!


・公式サイト「告発のとき

・ノベライゼーション『告発のとき

・関連書籍

 『聖書

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コメント(2)

キリハラ キリ :

こんにちは
記述の中に「イスラエル王サウルの息子であるダビデ少年」とあるのですが、サウルの息子はヨナタンで(ダビデとヨナタンは親友)サウルとダビデは父子ではありません。(揚げ足取りのつもりではないです・・・このコメントは消してくださって結構です。)

いぬ :

キリハラ キリさま
その通りです。勘違いしてました。
ご指摘ありがとうございますー。

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