ニュー・シネマ・パラダイス
[いぬのえいがひょう] vol.046
ニュー・シネマ・パラダイス (1989)
Nuovo Cinema Paradiso
サルヴァトーレの母は語る。「あなたの家に電話をするたびにいつも違った女性が出てくる。でもあなたのことを心から愛している人の声を今まで聴いたことがない」─。
故郷を遠く離れて映画監督として成功したサルヴァトーレは、幼少期から青年期までを過ごしたシチリアの田舎を数十年ぶりに訪れる。
子供時代に親しかった映写技師アルフレードの葬儀に参列するためだ。
サルヴァトーレは帰郷に向かう旅客機の中で、かつてトトと呼ばれていた幼い日の頃を思い返していた。
当時、村の人々でたったひとつの娯楽であった映画館。特にトトは、母親に頼まれた買い物のお金で映画を観るほどの無類の映画好きだった。
そんなトトを魅了していたのは映画館パラダイス座の映写室であり、また映写技師のアルフレードたった。
パラダイス座には司祭の検閲があり、そのせいで村の人々はこれまで映画のキスシーンを見たことがなかった。
トトはいつも映写室に入り込む機会を窺っていたが、アルフレードは彼を追い返そうとする。
アルフレードの目を盗んで、カットされたフィルムを宝物にして集めるトト。
アルフレードも、小生意気なトトが自分を慕ってくるのがまんざらでもないようで、トトに映写の手伝いまでさせるようになる。
少しずつ恋慕を育んでゆく二人。
アルフレードはある日、パラダイス座でトトに魔法を見せる。
アブラカタブラ。アルフレードが魔法の呪文を唱えると、パラダイス座の映画は映写室から村に飛び出す。
トトはますますアルフレードに恋焦がれるようになる。
魔法の世界のトトといえば、『オズの魔法使
』(1939)の、ドロシーのパートナーの犬のトト。
虹の彼方に幸せがあると夢見るドロシーは、ある日、竜巻によってトトと共に、魔法の世界に飛ばされてしまう。
ドロシーはもとの世界へ帰る方法を探す旅の中で、自己否定に悩むさまざまなかたに出会う。
自分には勇気がないと思い込んでいたライオンの内側に、ドロシーは勇気を見出だす。
自分には心がないと思い込んでいたプリキ男の内側に、ドロシーは心を見出だす。
自分には頭脳がないと思い込んでいたカカシの内側に、ドロシーは頭脳を見出だす。
もとの世界に幸せがない、と嘆いていたドロシーは、自分の持っていた幸せに気付く。
トトはもとの世界でもオズの世界でもずっとドロシーを慕っていた。
世界へ帰る魔法の呪文は、「おうちがいちばん!」。
ドロシーの幸せは、犬のトト。トトとずっと一緒にいられるおうちがいちばん!
そう、「トト」は、幸せをくれる名前なの。
アルフレードの幸せは、トトだった。アルフレードには、トトがいちばん!
トトもアルフレードに夢中だった。トトには、アルフレードがいちばん!
しかしある日、映写中のフィルムに火がつき、パラダイス座は瞬く間に燃え尽きてしまう。トトの懸命の救出にもかかわらず、アルフレードは火傷が原因で失明してしまう。
やがてパラダイス座は再建され、アルフレードに代わってトトが映写技師になる。
青年に成長したトトは、自分のカメラを手に入れる。
トトはこっそりカメラで撮影した銀行家の娘エレナに熱をあげる。
エレナに想いが通じ、幸せなひと夏を過ごすが、彼女の父親は二人の恋愛を認めようとせずエレナは遠方に引っ越してしまう。
トトの前にエレナが二度と姿を現わすことはなかった。
そんなトトに、アルフレードはある逸話を話す。
昔々、美しい王女に兵士が恋をした。王女は兵士にある条件を出す。
「100日の間、昼も夜も私のバルコニーの下で待っていてくれたなら、私はあなたを受け入れましょう」
兵士は王女のバルコニーの下で待ち続けた。雨の日も風の日も動かず、1日、2日、10日、20日…。
連日待ち続け、ボロボロになった兵士はしかし、あと1日を残した99日目の夜、その場を去っていった。
そして、アルフレードは、トトに村を捨て、アルフレードを捨て、都会に行くことを無理に勧める。
30年後、村に戻ってきたサルヴァトーレ(トト)は、駐車場に姿を変えようとしている荒れ果てたパラダイス座の試写室で、アルフレードの遺した形見を手にする。30年前からずっと本当に愛せる相手はエレナだけだったと思い続けていた彼は、しかし、アルフレードの形見を見て、はっきり気付く。
ずっと恋焦がれていた相手は、エレナ本人ではなく、フィルムに焼き付けた美しいエレナの姿であったと。
それが、アルフレードに寄り添いながら映写室の窓越しに見た映画のハリウッド女優を思い起こさせるものだったから。
自分はエレナを愛していたのではなく、アルフレードと過ごした時間のひとつひとつを愛していたことを悟り、サルヴァトーレは涙を流す。
足を怪我したふりして、アルフレードに後ろから抱かれるかたちで自転車に乗った時のアルフレードの熱い太腿の感触を思い起こしながら、サルヴァトーレの心はかつてのトトに戻っていた。映写室で魔法を見せてくれたアルフレードの吐息を、トトの耳元はいつも忘れたことはなかった。
トトはこれから先、何にも増して大切なものだと気付いたアルフレードの想いを、自身のものとして引き受けてゆくことを、胸の奥で深く誓うのだった
トトは、自分は女性に魅かれると勘違いしていた。
アルフレードも、トトを勘違いしていたのだろう。
「でもあなたのことを心から愛している人の声を今まで聴いたことがない」そう言うサルヴァトーレ(トト)の母だけは気付いていた。
トトには、アルフレードがいちばん! アルフレードには、トトがいちばん!
トトは村を出たがってはいなかった。アルフレードと離れたくはなかった。
なのに、アルフレードは、トトを遠ざけようとした。
それは、トトには、貧乏な村で一生を終えるよりも都会で成功してほしいという願い故のこと、のように描かれているけれど。
トトの幸せは村の外にあると決め付けるのは、アルフレードの勝手な決め付け。
兵士と王女の逸話が、あやしい。あやしすぎる。
兵士はあと1日を残して、何故立ち去ったのか。
100日目、もし王女が約束を破ったなら、兵士には絶望しか残らない。
99日目で立ち去れば、王女の約束は本当だったと信じていることが出来る。
だから、兵士は99日目で立ち去ったのだった。
トトとエレナの関係が続かなかったのは、エレナの父親に邪魔されたためで、エレナとトトの間に、嘘の約束はない。
エレナのトトへの気持ちには、疑いを挟むような点はない。
そんな関係に対して、兵士と王女の逸話を語るのはちょっと話にズレがあります。
兵士と王女の逸話は、トトとエレナについての例えではないのではなく、実は、アルフレード自身の心情を語ったのではないでしょうか。
トトも自分を愛していると信じたかったけれど、信じきれない。
映写技師として、長いあいだ映画に親しんできたアルフレード。
老いたゲイと若い男の関係を描いた有名な作品といえば『ベニスに死す』。
同性愛を描いた映画がまだ少なかった当時、数少ないロールモデルの中から、『ベニスに死す
』の、美少年タージオのために破滅してゆく老いたゲイ、アッシェンバハに自分を当てはめてしまったのでしょう。
トトとの関係を駄目だと思い込むと、どんどん駄目に違いないと思うようになって、自分がトトによって破滅するかもしれない不安にとりつかれてゆく。
アルフレードは、『ペニスに死す』より、『オズの魔法使』を観ていれば良かったのに。
ドロシーとトトは、一緒にいられたら幸せだった。
アルフレードとトトは、一緒にいられたら幸せだった。
「幸せはあったかい子犬」と、『スヌーピーとチャーリー
』"Peanuts"の作者チャールズ・モンロー・シュルツは言ったよ。
犬のトト、かわいいよー。ドロシー、かわいいよー。
トト、かわいいよー。アルフレード、かわいいよー。
『ニュー・シネマ・パラダイス
』
恋に破滅する映画を観たら、恋が成就する映画も観てバランスを取りましょう、という教訓でしたー。
あ! そうそう! いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
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