それぞれのシネマ ~カンヌ国際映画祭60回記念製作映画~
[いぬのえいがひょう] vol.047
それぞれのシネマ ~カンヌ国際映画祭60回記念製作映画~ (2007) Chacun son cinéma : ou Ce petit coup au coeur quand la lumière s'éteint et que le film commence
カンヌ映画祭60回を記念して世界各地の映画監督に発せられた、「あなたにとって映画館とは何か、自由なイマジネーションで、3分間の短編映画を作ってください」という依頼。それを受けてつくられた33編の短編を集めた『それぞれのシネマ ~カンヌ国際映画祭60回記念製作映画~』。
それぞれに個性の強い33編。
その中で、特に好感を持ったのが、デンマークのピレ・アウグスト監督の『最後のデート・ショウ』。
イラン女性とデンマーク男性がデンマーク映画を観ている。デンマーク語のわからない彼女に英語で解説する男性。
それを、うるさく思った他の観客が、「黙れよ」、「テヘランに返せ」と2名をなじる。
男性は、彼女を侮辱されたと劇場支配人に訴え、なじった観客たちは追い出されるが…。
そのあとが驚く展開を見せ、相互理解の可能性を見せてくれるオチをきっちりまとめてしまう。
優しい気持ちになれる素敵な3分間です。
この優しさ、同監督が同時期に撮っていた『マンデラの名もなき看守』にも通じるところがある…も何も、クレジット部分の音楽が『マンデラの~』のスコアだった。
一方、この中では、ガス・ヴァン・サントの『ファースト・キス』は、どうにも好感を持てない。
冴えない白人青年がスクリーンの中の若い金髪白人美女とキスをする、色鮮やかでお洒落な映像。
「みんな、これを観て、年上の金髪美女に憧れた若い頃を思い出して。甘酸っぱいノスタルジーに酔わせてあげるよ」といった感じ。
この、「映画館の映画集」の中で、チャン・イーモウの『映画を見る』や北野武の『素晴らしき休日』では、映画館へのノスタルジーを見せてくれます。
この観客層の中では、映画館への愛着は普遍的だろうから良い。
それに対して、若い金髪白人美女への憧れを普遍的なように描かれるのは、どうにも視野偏狭にすぎる。
スタイリッシュな格好良い映像は、若い異性愛白人男性(たいして美しくなくてもいい)と、若い異性愛女性(美しくなきゃ駄目)のものなんだねえ。
ヒスパニック系のおばあさんと太った黒人女性のキスを描け。
ウォン・カーウァイの『君のために9千キロ旅してきた』も、ガス・ヴァン・サントと似たようなもの。
男の、甘酸っぱい初恋を、やっぱりスタイリッシュに描く。
男はいつも、思い出を値踏みする主体。女は思い出という「モノ」にされる対象。
この嫌な2編は、どちらも、ヘテロ・セクシズムとエイジズムという、力を持った価値観を前提にすることで、共感を得られるように造られています。
でも、33編中、嫌なのはこの2編だけでした。29/33は悪くない。素晴らしい当たりの確率。
『最後のデート・ショウ』と並んで、もう1つ気に入ったのを挙げるとしたら、これまたデンマークのラース・フォン・トリアー監督の『職業』。
同監督の前作『マンダレイ』(2005)は、奴隷として従属することを望む人々の姿を皮肉たっぷりに描いた傑作コメディだった。
その『マンダレイ』の上映中。客席にいるラース監督の隣に座ったビジネスマンが映画と関係ない自慢話を語りはじめる…。
ガス・ヴァン・サント、ウォン・カーウァイが、3分間で力を持った価値観の押し付けを強化したのと対照的に、ラース・フォン・トリアーは、力を持った価値観を叩き潰す。
「叩き潰す」は比喩ではなくて、ほんとうに叩き潰す。
『マンダレイ』の台詞の絡めかたが、お茶目で凝っていて、かわいい。
ジェーン・カンピオン監督の『レディ・バグ』は、複雑な気持ちになります。
ドラァグ・クイーンのような派手なレディ・バグは、小太りの身体を揺らして楽しく踊る。
レディ・バグは、男尊女卑な男に目に付けられ、いたぶられる。善いも悪いも特に説明はない。
ジェーン・カンピオンとは無関係だけど思い浮かんだのが、『ヒトラー 最後の12日間』という映画。
そこでは、ヒトラーの行動を非難するでも賞賛するでもなく淡々と描かれる。
善悪を明示せず描けるのは、ヒトラーは悪いということが、前提として共有されているから。
『レディ・バグ』を描けるカンピオン監督の周囲では、男尊女卑は悪いということが周知の事実として共有されているのでしょう。
羨ましい限りです。
善悪が共有されていない場所では、善悪を明示しなきゃならないのだよね。
何故、それが悪いか、説明が求められる。
でも、説明すると、しつこい、めんどう、と、敬遠される。
全体主義的な口封じのスタンダードなやり口。
説明なしに、明示しようっと。
いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
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<収録作品>
・夏の映画館 Cinema d’ete
監督:レイモン・ドゥパルドン (フランス) 代表作「アフリカ、痛みはいかがですか?」
・素晴らしき休日 One Fine Day
監督:北野武 (日本) 代表作「キッズ・リターン」「監督・ばんざい!」「アキレスと亀」
・3分間 Trois minutes
監督:テオ・アンゲロプロス (ギリシャ) 代表作「旅芸人の記録」「エレニの旅」
・暗闇の中で Dans le noir
監督:アンドレイ・コンチャロフスキー (ロシア) 代表作「暴走機関車」「天使が降りたホームタウン」
・映画ファンの日記 Diario di uno spettatore
監督:ナンニ・モレッティ (イタリア) 代表作「息子の部屋」「親愛なる日記」
・電姫戯院 The
Electric Princess House
監督:ホウ・シャオシェン (台湾) 代表作悲情城市」「百年恋歌」
・暗闇 Dans
l’obscurite
監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ (ベルギー) 代表作「ロゼッタ」「ある子供」「息子のまなざし」
・アブサーダ Absurda
監督:デヴィッド・リンチ (アメリカ) 代表作「イレイザー・ヘッド」「マルホランド・ドライブ」「インランド・エンパイア」
・アナ Anna
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ (メキシコ) 代表作「アモーレス・ペロス」「21グラム」「バベル」
・映画をみる En regardant le Film
監督:チャン・イーモウ (中国) 代表作「紅いコーリャン」「初恋のきた道」「HERO」「LOVERS」
・ハイファの悪霊(ディブク) Le Dibbouk de Haifa
監督:アモス・ギタイ (イスラエル) 代表作「キプールの記憶」「フリー・ゾーン~明日が見える場所~」
・レディ・バグ The Lady Bug
監督:ジェーン・カンピオン (ニュージーランド) 代表作「エンジェル・アット・マイ・テーブル」「ピアノ・レッスン」
・アルトー(2本立て) Artaud Double Bill
監督:アトム・エゴヤ (カナダ) 代表作「スウィート
ヒアアフター」「フェリシアの旅」
・鋳造所 La
Fonderie
監督:アキ・カウリスマキ (フィンランド) 代表作「白い花びら」「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」「街のあかり」
・再燃 Recrudescence
監督:オリヴィエ・アサヤス (フランス) 代表作「イルマ・ヴェップ」
・47年後 47 ans apres
監督:ユーセフ・シャヒーン (エジプト) 代表作「アレキサンドリアWHY?」「炎のアンダルシア」
・これは夢 It’s a Dream
監督:ツァイ・ミンリャン (台湾) 代表作「西瓜」「Hole」「黒い眼のオペラ」
・職業 Occupations
監督:ラース・フォン・トリアー (デンマーク) 代表作「奇跡の海」「イディオッツ」「ドッグヴィル」「マンダレイ」
・贈り物 Le
don
監督:ラウル・ルイス (チリ) 代表作「クリムト」「見出された時─「失われた時を求めて」より─」
・街角の映画館 Cinema de boulevard
監督:クロード・ルルーシュ (フランス) 代表作「男と女」「愛と哀しみのボレロ」「ライオンと呼ばれた男
」
・ファースト・キス First Kiss
監督:ガス・ヴァン・サント (アメリカ) 代表作「サイコ(1988)」「エレファント」「パラノイドパーク」
・エロチックな映画 Cinema erotique
監督:ロマン・ポランスキー (ポーランド) 代表作「戦場のピアニスト」「ローズマリーの赤ちゃん」「チャイナ・タウン」
・翻訳不要 No
Translation Needed
監督:マイケル・チミノ (アメリカ) 代表作「ディア・ハンター」
・最後の映画館における最後のユダヤ人の自殺 At the Suicide of the Last Jew in the World in the Last Cinema in
the World
監督:デヴィッド・クローネンバーグ (カナダ
) 代表作「スキャナーズ」「ザ・フライ」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イースタン・プロミス」
・君のために9千キロ旅してきた I traveled 9.000 km to give it to you
監督:ウォン・カーウァイ (中国) 代表作「ブエノスアイレス」「恋する惑星」「2046」「マイ・ブルーベリー・ナイツ」
・ロミオはどこ? Where is my Romeo?
監督:アッバス・キアロスタミ (イラン) 代表作「風が吹くまま」「桜桃の味」「明日へのチケット」
・最後のデート・ショウ The Last Dating Show
監督:ビレ・アウグスト (デンマーク) 代表作「愛と精霊の家」「ペレ」「マンデラの名もなき看守」
・臆病 Irtebak
監督:エリア・スレイマン (イスラエル) 代表作「D.I.」
・唯一の出会い Rencontre unique
監督:マノエル・デ・オリヴェイラ (ポルトガル) 代表作「クレーヴの奥方」「アブラハム渓谷」「わが幼少時代のポルト」「夜顔」
・カンヌから5575マイル A 8.944 km de Cannes
監督:ウォルター・サレス (ブラジル) 代表作「モーターサイクル・ダイアリーズ」「ダーク・ウォーター」
・平和の中の戦争 War in Peace
監督:ヴィム・ヴェンダース (ドイツ) 代表作「都会のアリス」「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」「ランド・オブ・プレンティ」
・チュウシン村 Zhanxiou Village
監督:チェン・カイコー (中国) 代表作「さらば、わが愛/覇王別姫」「PROMISE」「キリング・ミー・ソフトリー」
・ハッピーエンド Happy Ending
監督:ケン・ローチ (イギリス) 代表作「麦の穂をゆらす風」「マイ・ネーム・イズ・ジョー」「明日へのチケット」「この自由な世界で」
<公式サイト>
<DVD>
『それぞれのシネマ ~カンヌ国際映画祭60回記念製作映画~』
<関連DVD>
『マンダレイ』
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