オルカ
強大な敵に、妻や娘(決して息子ではない)を傷つけられた既婚男が奮い立ち、勇敢に戦って復讐を遂げる。
男のヤクザ映画。男のマフィア映画。男のアクション映画。
マッチョな男が好んで観て、男らしさに陶酔する映画の類型パターンであります。
男性性という、史上最も強大な権力の多大な支援を受けている男の自我、男の肉体持った主人公。
はじめから横暴であります。
男であるという横暴な権力を身につけた勇敢な男が、横暴な権力に立ち向かう。
何のこっちゃ。横暴同士の戦いであります。勝手にやってなさい。
ジョン・マクレーン(『ダイハード』)しかり。
ジョン・ランボー(『ランボー』)しかり。
ジョン・メイトリックス(『コマンドー』)しかり。
あ。ジョンが並んだ。
誰でもない市井の市民の名前を仮に「ジョン・ドゥー」と呼ぶように、「ジョン」は共感を呼びやすいのだろうか。
この映画の勇敢な男の名前は、ジョンではない。名前はわからない。
オルカと呼ばれる彼は、ごく普通の恋をし、子供をもうけました。
でも、ただひとつ違っていたのは、男は、シャチだったのです。
漁船の船長ノーランは、メスのオルカに銛を打ち込み吊り上げる。
メスのオルカは、苦しみながら胎児を産み落とし死んでしまう。
一部始終を見ていたオスのオルカは、憎しみに満ちた目でノーランを見つめる。
オルカは、帰途途中の船を襲い、甲板に出ていた船員を食い殺すが、それはまだ復讐のはじまりに過ぎなかった。
陸に戻ったノーランを追い詰めるように、港町の漁船は次々と沈められ、港は火の海になる。
漁民たちは、ノーランに責任を取ってオルカを殺すように命じる…。
叙情をもって描かれる、オルカは弱者ではない。
巨大なセイウチを遊びながら狩り、狂暴なサメをも難無く食い殺す海の王者。
男と同じ、その世界の強者だ。
けれど、背後に何も持たない。男のヒーローと違い、虎の威を借りていない。潔い。
でも、別な威にノックアウトされます。それは、オルカのうつくしさ。
人間にはない、圧倒的なうつくしさ。
オルカの派手な復讐は、エンニオ・モリコーネの叙情に溢れた音楽で彩られる。
ダイナミックなスペクタクルが描かれながら、血沸き肉躍らせることを意図した、『インディ・ジョーンズ』シリーズの“Raiders March”のような勇猛な曲ではない、切ない叙情。
切ない叙情といっても、『カサブランカ』の“As Time Goes By”のような、恋愛規範を前提にした切なさのような限定性はない、荘厳な叙情。
オルカは白黒。白黒はうつくしい。白黒はかわいい。
シャチ。パンダ。ダルメシアン。ボストン・テリア。
そうそう! いぬうつくしいよー! いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
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