フロンティア
[いぬのえいがひょう] vol.049
フロンティア
(2007) Frontière(s)
「人は平等だという。でも、憎しみが溢れたこの国には平等なんてない」
映画は、主人公ヤスミンのそんなモノローグからはじまる。
舞台は、「愛国心にあふれた保守的な」政治勢力が躍進したフランス。
それにより、各地で暴動が発生。
政府は、暴動鎮圧のために外出禁止令を出し、事態の収拾に当たる。
国外逃亡を望む5名の移民の若者は、暴動の混乱に乗じて、逃亡資金を得るために強盗を計画する。
しかし、メンバーのうち1名、ヒスパニック系のサミが警察官の銃弾を受けてしまう。
サミの妹のヤスミンと、アレックスは、サミを病院に担ぎ込むが、病院職員に通報され、サミは治療を受けずに息絶えてしまう。
一方、他の2名、女嫌い(=「女好き」)のイタリア系マッチョなトムと、アラブ系のため偏見を受けてきたファリッドは、別の車で先にルクセンブルクを目指し、国境手前に宿屋に宿泊する。
そこで彼らは、アーリア系の金髪美女、ワイルドなジルベルトとスタイリッシュなクローディアの歓待を受けるが、それが罠だと気付く由もなかった。
ヤスミンとアレックスが宿屋に到着すると、ジルベルトとクローディアが出迎える。
彼女たちは、トムとファリッドが泊まっている屋敷へ案内すると言う。
だが、その屋敷は、自分たちアーリア系人種の優位を信じる「愛国心にあふれた保守的な」家族の屋敷だった。
宿屋と屋敷の家族は、7名。
凶暴なジルベルトと不安定な心理のクローディア。芝居じみた物言いで一家に君臨する家長フォン・ガイスラー。その息子の冷酷なカール。宿屋を取り仕切る粗野なゲッツ。屠殺を任されながら、目の前の暴力には震えるハンス。そして、幼少時から一家に拾われ子供を産む道具として育てられたエヴァ。
映画の中盤は、まるで『悪魔のいけにえ』である。
狂った一家の支配する田舎の村で、若者たちが追われ監禁され有無を言わさず暴力を受ける。
『悪魔のいけにえ』は、最後まであえて狂った一家に理由づけをしなかった。
理由を描かないことによって、暴力しか向けてこない存在の得体の知れない特殊性で、ホラーとしての娯楽性である「恐怖」感を高めていた。
ところが、『フロンティア』は後半、そんな『悪魔のいけにえ』の恐怖のセオリーをあえて外す。
捕らえた非アーリア系の者は、屋敷の冷蔵室の肉鉤に吊るし保管するか、豚小屋で飼う。
ただし気に入った女は、家の血を存続させるため、子供を生む道具として家族に迎える。
迷い込んだ4名の中で、ヤスミンだけは、家族として迎えられる。
エヴァは、一家の「先輩嫁」としての心得をヤスミンに伝授する。
ヤスミンが「どうして逃げないの?」と尋ねると、エヴァは答える。
「両親がここに迎えにきてくれると聞いているの。親はそう簡単に子供を見捨てないわ。だからここを離れるわけにいかない」
そんなあてにならない、親子愛。
親子愛という幻想は、エヴァの思考を制限するものであると同時に、エヴァの内面の支えでもあった。
エヴァは子供を3回産んだが、奇形児だったため殺せと命令された。が、殺せずに廃炭鉱の中に隠して育てているという。
ヤスミンは家長フォン・ガイスラーに「あなたたちは異常よ」と叫ぶ。するとガイスラーは、「おまえは異常ではないというのか」と切り返す。
この一家は異常だが、特殊ではないのだ、自分たちの望む形のより良い生活を望む家族の姿。
家族は、外部から女を取り込んで家を拡大する。あまりにありふれている、普通の、家制度の家族だ。
他によくある家族愛を描いた映画、愛国に殉じた者たちを描いたような映画に出てくる家族と同じだ。
そして、ヤスミンは、家族たちと戦いながら脱出を企てる。
ヤスミンの姿に触発されたエヴァも少しずつ、自分がどうしたいのかを考えることが出来るようになり、ヤスミンとの絆が芽生えていく。
この家族は、(エヴァを除いて)たかだか6名の家族だ。
ヤスミンは、困難ではあったが、家族との戦いに打ち勝つ。
そしてヤスミンは、エヴァに一緒に逃げようと言うが、エヴァはそれを断る。
炭鉱に隠した子供のことと、迎えにきてくれるはずの両親のことを考えたのか。
エヴァのヤスミンとのあいだに成就しかけた絆は、エヴァ自身の内の親子愛と母性愛という幻想によって引き裂かれる。
それが幻想だとエヴァもわかっているのだろう。わかっていても、そう簡単に幻想は自身の内から出ていってはくれない。
最後のエヴァの悲痛な叫びは胸を打つ。
そして映画の最後、なんとか逃げおおせたヤスミンを、警察が出迎える。
冒頭で、ヤスミンたちを追った警察官たちは、ヤスミンたちの考えに全く聞く耳を持たない。
暴動を鎮圧する警察官は、考えることをしない。
多くの信奉者がいるからこそ成り立つ国家は、一人一人は考えないでも、一人一人の担う貢献は僅かで、維持できる。
物々しい脅しで恐怖支配するまでもなく、強制力を発動し抵抗の芽を摘むことに長けた権力。
首枷も鎖もなく、ほんの僅かな偏見の集積で身体を拘束し続ける権力。
特殊な、自分たちの望む形のより良い生活を望む国家の姿。
国家権力に保護されたヤスミンは、斧や肉鈎の餌食になることはないだろう。
しかし、田舎村の家族になら、困難でも抵抗が可能だった。
抵抗の実践を経験したヤスミンが、これからこの国家という「異常な」牢獄で感じる無力感は、どれほどのものだろうか。
あ! そうそう! いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
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