クィアなんて迫力がない
[いぬのえいがひょう] vol. 052
ピンク・フラミンゴ (1996) Pink Flamingos
ただひたすら退屈という印象しかない映画がある。
『ピンク・フラミンゴ 』もそんな映画のひとつ。
といってもその退屈な印象は、20年前に観たときの印象。
強烈に下品で気持ち悪いという評価ばかりを受け続けるこの映画、退屈なんて評価は聞いたことがない。
20年前に観たときは、気が乗らず退屈だったのだろうか。
改めて観てみよう。
ここからは、『ピンク・フラミンゴ』を観ながら書きます。はい、再生スタート。
0:00:01
ニューラインシネマのロゴ。
リマスターされたノーカットで公開されたバージョン。
そのバージョンの配給がニューラインシネマ。
ああ、そうか。以前観たときは、映像が修正だらけで退屈だったのかもしれない。
ピンクのトレーラーハウス。傍らにはピンクのフラミンゴの置物。
そういえば、これは何故『ピンク・フラミンゴ 』というタイトルなのか知らない。
0:02:52
ナレーション「このトレーラーハウスは、“世界一お下劣な女”ディバインの目下の隠れ家です。ゴシップ誌で写真が出回って以来、潜伏生活を送っています。変装し、名前もバブス・ジョンソンと改名。無二の親友コットンと、息子のクラッカー、頭の弱い母親も一緒です。中を見てみましょう」
母親だけ名前がないのね。
0:03:28
ベビーサークルの中に入っている太った母親が早く卵をちょうだいと催促する。
ディバイン登場。サークルの傍らに座って母親の手を握る
母親「この電車は何なの?」
ディバイン「これは新しく買ったトレーラーハウスよ、今度はみんなに部屋があるのよ」
ディバイン、母親に目玉焼きをつくってあげるために部屋を出て行く。
0:05:17
場面は変わって。
ナレーション「一方、こちらは大都会のボルチモアです。レイモンド・マーブルとコニーの変態夫婦は、ディバインの人気が妬ましくてなりません」
真っ赤な髪に、仮装じみた眼鏡のコニーは、サンディという娘の採用面接。
コニーは、「ディバインも知らない世間知らずじゃお話にならない」と不採用。
サンディは“You Are Real Cunt! You
Know That?”と言い捨てて出て行く。
“Cunt”だけで貶し言葉になるのかね。あーあ。
0:08:13
ディバインの母親とコットンが『マザーグース』のハンプティ・ダンプティについての会話。
「なんで卵が人間なの?」「卵が服を着ているだけなの」
クラッカーがデートに出かける。ニワトリを抱いてキス。
ディバインもおめかししてお出かけ。「いい男いないかしら。セックスしたい」
仲むつまじいトレーラー・ハウス、ほのぼのしてる。
0:13:28
コニーとレイモンドの家。
地下室に監禁した女に産ませた子供をレズビアン・カップルに売りさばく。
0:16:10
ディバインのおかいもの。牛肉を買って、股のあいだに挟む。
路上で排便(しているふり)。
0:20:14
ポーズを取ったディバインの写真が一面に載った新聞。
『ディバイン:世界一お下劣な人間が生きていた!』
写真のディバインは、なんということもない、ドラァグ・クィーン。
自分が一番お下劣でありたいコニーが、新聞記事を読んで嫉妬に狂う。
0:21:00
レイモンドはその頃、ペニスにつけたソーセージを女学生たちに見せびらかす。
女学生たちは悲鳴をあげ慌てて逃げる。
女学生が置いていった鞄を持っていくレイモンド。
性器露出ではなく、窃盗が目的なのかねえ。
0:22:35
レイモンドとコニーの家にやってきた、クッキーという娘。
このクッキーが、情報を探るためにディバインの息子クラッカーとデートするらしい。
レイモンドとコニーは、ディバインよりも自分たちのほうがお下劣だと自負している。
拉致した女をチャニングという男に強姦させて、産ませた子供を密売。
ポルノ店経営。違法薬物を売る小学生への資金提供。
お下劣というより、単に、犯罪者だ。
0:25:25
トレーラーハウスへ来たクラッカーとクッキー。
クラッカーはかわいがっているニワトリと一緒にクッキーとセックスしようとする。
嫌がるクッキー。クチバシやツメが痛い、というより、ニワトリを嫌がっているもよう。
だから何?
0:30:16
たまごが大好きな母親に、たまごマンがスーツケース一杯のタマゴを売りに来る。
0:32:20
車に乗ったコニーとレイモンドとチャニング、ヒッチハイクをしている娘を拾って拉致。
地下室に監禁し裸にした失神したままの娘の前で、チャニングは「触らずに妊娠させる方法を考えた」とオナニーをはじめ、射精した精液を注射器で娘に注入する。
以前から監禁されていた女は、それを見て、「注射器を使うなんて、ケダモノ」と嘔吐する。
ケダモノだけれど、ペニスか注射器かがポイントではないだろうに。
性器結合は良くて、オナニーは悪いという文化が前提ですか?
なんというか、ただ、つまらなくて、ストーリーをなぞる以外の書きようがない。
お下劣が売りなのに、お下劣というより、「お」がぬけた、下劣な犯罪者。
何が面白いというのだろう。
0:35:41
クッキーが、レイモンドとコニーにディバインの誕生パーティが開かれるという情報を提供する。
誕生パーティに乗り込んで、ディバインの鼻を明かす計画を練るコニーとレイモンド。
ストーリーの展開を一応は丁寧に造っているのね。
0:40:44
コニーとレイモンドから、ディバインへの誕生プレゼントが届く。
中にあったのは、1本の大便とバースデイ・カード。
「お誕生日おめでとう、おデブさん。世界一下劣なのはお前じゃない。真の世界一下劣な人々より」
ディバインたちは、下劣さで負けない決意を固める。
0:46:59
コニーとレイモンドとチャニングの痴話喧嘩。
…どうでもいい。飽きてきた。
本題のお下劣合戦までの繋ぎでしょうかね。
0:52:26
ナレーション「たまごマンはイーディに求婚。イーディは求婚を受け入れた」
イーディとは誰かと思ったら、ここまで名前が出てこなかった、ディバインの母親だった。
結婚ですか。どうでもいい。
0:54:05
誕生パーティ。
トレーラーハウスの周囲は大勢のゲストで賑やかに。
プレゼントの数々にディバインは大喜び。
シラミ駆除シャンプー、大きな肉切り包丁、豚の頭、コカイン。
ちょっと変わったプレゼント、というだけ。
肛門をぱくぱく開いたり閉じたりしてみせるショーに、ゲストたちは驚いて大喜び。
それを隠れて覗いていた、コニーとレイモンドは、更に対抗意識を燃やす。
肛門をぱくぱくさせるのは、別に驚くような動きでもないし、何を騒いでいるのか、さっぱりわからない。
これまでの、コニーとレイモンドのお下劣さは、下劣というより、悪。
肛門ぱくぱくは、下劣というより、下品。
他者の目の前でやることではないとされていることが下品なこと。
上品下品の規範へお伺いを立て、下品と設定されているものを見たら、眉をしかめたり、驚いて騒いだりすべき、という指示に従っているだけ。
お笑い番組の効果音の笑い声のようなもの。
普通はしないことをしているだけ。
お笑い芸人男の「ホモネタ」よりほんの少し、普通からの逸脱の度合いが強いだけ。
つまらない。
0:58:55
コニーとレイモンドは、誕生パーティを公開乱交パーティだと、警察に通報する。
ディバインたちは、やってきた警察官たちを皆殺しにし、ばらばらにして食べる。
あからさまにつくりものの死体。
つまらない。
ところで、コニーとレイモンドのスパイ、クッキーはもう出てこないのかな。
1:01:56
レイモンドの下半身露出。
若い女だけを狙って、ペニスを見せる。
若い女もペニスを見せ返す。
レイモンドは驚いて慌てて逃げ出す。
女装か男装かではなく、ペニスかヴァジャイナかが大事なことなのですね。
性器フェチであることが前提になったネタ。
つまらない。
1:03:11
コニーとレイモンドの家へ、ディバインとクラッカーが殴り込みをかけるが、コニーとレイモンドは不在。
家の中を物色し、ベッドルームで、コニーたちがどれほど下劣なセックスをしているのかを想像しあう。
「ヘドが出そうな体位に決まってる。コニーが亭主の粗チンを口にくわえて腐った歯でシゴきあげる。アホ亭主にとっては最高のフェラ。そして青と赤の髪を見つめ合い、ケツに指を突っ込むのよ」
どこが下劣なのかさっぱりわからない。
つまらない。
そして、家中の家具を舐めながら、自分たちの下劣さを褒め称えあう。
つまらない。
ディバインは、ダイニング・ルームで、クラッカーにフェラチオをする。
つまらない。
1:09:05
そのころ、コニーとレイモンドは、トレーラーハウスへ侵入。
ディバインたちは、チャニングと、地下室に監禁されている2名の娘を発見。娘たちを救う。
娘たちは自分たちを虐待し続けたチャニングのペニスを切断する。
でも音だけ。チャニングの姿は写らない。
つまらない。
1:13:27
コニーとレイモンドは、ガソリンをまいたトレーラーハウスへ火をつける。
「これで私たちが世界で一番お下劣よ!」と勝利の叫びをあげる。
ただの犯罪だ。
つまらない。
1:14:57
トレーラーハウスが燃えている現場へ戻ってきたディバインたち。
すぐに、コニーたちの仕業と察知し、引き返す。
マフィア同士の抗争みたいだ。
つまらない。
1:16:31
コニーとレイモンドの屋敷。
ディバインたちがやってきて、コニーとレイモンドを縛り上げ、記者を呼び、公開裁判を行う。
トレーラーを燃やした罪、大便を送った罪のため、公開処刑。
ディバインは、コニーとレイモンドを銃殺。
やっぱりマフィア同士の抗争みたいだ。
つまらない。
1:30:51
最後のこの場面が、「世界一お下劣な女」を証明するためのこの映画の最大の見所らしい。
ディバインが、犬のノジーさんが出したばかりの大便を食べてみせる。
だから何だというのだろう。
大便は雑菌が多く含まれる可能性は高いけれど、毒とは言えないし。
たとえば性行為中には、大便のかけらを摂取する可能性はあるでしょうし、騒ぐほどのことでもない。
つまらない。
タイトルの『ピンク・フラミンゴ 』の意味はわからずじまい。
映画は、冷めた気持ちのまま終わってしまった。何の感慨もない。
結局のところ、やはり、つまらなかった。
ディバインが犬の大便を食べる場面。それが何故、お下劣なのか。または何故下劣なのか。
女を拉致監禁して閉じ込め強姦し妊娠させ出産させ生まれた子供を奪うのは下劣だ。
犬の大便を食べることはそのような犯罪ではない。そのような犯罪、どころか、全く犯罪ではない。
評価基準は、上品か下品かだ。くだらない。つまらない。
ディバインは、結局のところ、ドラァグ・クィーンに過ぎないのだと思った。
ドラァグ・クィーンは、ドラァグ・クィーンでしかない。
クイア(変態)の代表のように語られるドラァグ・クィーン。
しかし、ドラァグ・クィーンは、他者や自分自身の視線を意識した、ショーとしてのハレの変態だ。
常態の変態ではない。
斜めのポーズはどこまでも斜めで、背を向けることはない。
ハレの状態での変態を大袈裟に喜んでいるだけ。
むしろ、変態は規範を強化する。ディバインはどこまでもハレの変態だった。
特定の凝り固まった規範を参照してこそ、『ピンク・フラミンゴ 』は、面白かったり気持ち悪かったりするのだろう。
下品さは上品な規範の支配を解体しない。むしろ強化するくらいだ。
「あたしオカマだから」そうオカマが冗談めかして自分を卑下するとき、男らしい男を称え、男らしい男を肯定する根拠のない価値観の支配を少し強化する。
オカマが当たり前なら、オカマの面白さは成り立たない。
ドラァグが当たり前なら、ドラァグの面白さは成り立たない。
変態行為をするのは楽しいかもしれないが、見ているだけなら面白くはない。
面白くなくていい。面白い必要は全くない。
面白さを感じるのは、変態を変態と定義する凝り固まった規範の参照故のことだ。
変態が常態になってしまえば、ドラァグにハレの意味はなくなる。
肛門は、太いものを挿入すると、しばらくその大きさをとどめる。肛門ぱくぱくも難なくできるものだ。
ディバインが自分の大便を食べようと意に介さない犬のノジーさんが好きだ。
ノジーさんかわいいよー! いぬかわいいよー! いぬってすてき! わんわん!
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