[住まい図鑑] 倉庫に住まう
場所は名古屋の繁華街である栄まで自転車で10分のやや高級な住宅地。近くには高級スーパーに本屋、銀行、コンビニもある立地のいい場所に、工房に加えショップまで備えた住まいがある。これだけの説明だとなんだか、金持ちのマダムの優雅な趣味空間と思われるかもしれないが、ここは若い女性が中古の倉庫を自ら改装した、タフで廉価な住まいであり仕事場だ。
■ 建物概要
・ 住所:愛知県名古屋市
・ 広さ:間口が3間(約5.5m)、奥行き9間(約16.4m)の2階建て。
空間構成:1階の手前から3分の2が家具店で、その奥に工房。2階の一角に寝室およびダイニングをつくり、その他は物置として利用。
築約80年の倉庫を改装。
●倉庫を自ら改装した、住まい兼仕事場
外壁はトタンの平板で覆われ、入り口は大きくて重い引き戸。もともと倉庫だったこの建物は、敷地面積約50㎡・2階建のやや大きめの建物。そこを家具製作をしながらショップを営むYさんが借り、友人たちと床をはり、漆喰壁を塗り、仕切り壁をつくり、寝室部分は断熱材をはり…と、家具店兼工房兼住居としてリフォームした。さすがに配管・配線工事は業者に発注したが、基本自分でやる、というスタンスがかっこいい。「まぁ、お金の問題で。」とYさんは笑うけれど、お金がないから自分でやるという選択も、つくる腕も発想さえない私にとっては、すごいこと。住まい部分は2階の一角にあり、今もちょこちょこと手をいれながら生活している。断熱材で囲まれた寝室の隣は、ダイニングスペースになる予定だとか。
●職人が選ぶ家具と雑貨
白熱灯がほんわかと照らす1階の家具店には、木製家具を中心に陶磁器やガラス器、漆器など生活雑貨もずらり。どの品も職人の丁寧な仕事によるものなのか、あたたかい中にも凛とした空気が漂っている。手仕事の風合いとかいって、意図的な未熟ささえも「味」だとかいうおかしな商品はない。
●生産から販売まで、現代的な職人のスタイル
その奥には電動工具と手道具が並ぶ工房がある。2階の床の一部を抜いて少し長めの木材を保管していたり、壁や柱に道具をうまく配置していたり。限られたスペースで作業する職人さんの仕事場は、空間使いが面白い。
お邪魔したときは180cmもある大きなテーブルを製作中で、それを小柄な彼女が一人でひっくりかえしたりすると聞いてびっくり。家具の製作だけでなく、店の商品の仕入れや配送、販売に、ギャラリーの企画展まで、一人でよく手が回るなぁ、と伝えたら、「逆に、家具の製作だけに没頭するってのができないんです。お店で人と話をしたりするのが楽しくて」とのこと。広く手がけることで浅くなるのではなく、直接ユーザーの声を聞きそれをまた家具製作に反映させたり、他の作家さんから刺激をもらったり、違う深さを持っているのだと思う。インターネットや道路など、インフラが充実している現代だからこそ、できる新しいスタイルだ。
●信頼できる関係と行動力
建物の賃貸にはお金だけでなく、信頼関係が必要。しかもこんな大胆な改装と、ユニークな使い方が許されるなんて、知人の紹介などがあったのかと思いきや、たまたま建物の前を通りかかったときに、貸物件の張り紙を見つけただけ。大家さんはいたっておおらかな人で、内装は好きにしてください、と言って一度ちらっと見に来ただけで、基本的に任せてくれたとか。きっと「この人なら、大丈夫」と思わせる安心感が彼女にはあったのだろう。
この都市型アトリエ付き住宅の実現に必要だったのは、現金でもパトロンでもなく、既存の建物に自らザクザクと手を入れる行動力&モノづくり力と、人と違う住まいを厭わない思い切りのよさ、友人や大家さんなどとのいい人間関係。物価や人件費がどんどん高くなる中、そうしたものが今後より重要になってくるのかもしれない。
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