他者を否定しないという既得権益
この2作品は、インターネット上でも、日常会話でも、ひとくくりに同列に、語られることが多いように見受けられます。
試しに、Googleで以下の語の検索をかけると、以下のヒット数になりました(2008/11/03現在)。
『タイタニック』
【タイタニック ロミオ&ジュリエット】 ・・・
54,100件 (主演レオナルド・ディカプリオの代表作)
【タイタニック 乙女の祈り】 ・・・
16,400件 (主演ケイト・ウィンスレットの代表作)
【タイタニック アンカーウーマン】 ・・・ 4,860件 (歌 セリーヌ・ディオン)
【タイタニック 恋におちたシェイクスピア】 ・・・
8110件 (1997年と1998年の米アカデミー作品賞)
【タイタニック ポセイドン】 ・・・
43,900件 (豪華客船の沈没が題材)
『アルマゲドン』
【アルマゲドン ダイ・ハード】 ・・・
47,500件 (主演ブルース・ウィリスの代表作)
【アルマゲドン ロード・オブ・ザ・リング】 ・・・
44,700件 (助演リブ・タイラーの代表作)
【アルマゲドン ライトニング・イン・ア・ボトル】 ・・・342件 (歌 エアロスミス)
【アルマゲドン ディープ・インパクト】 ・・・
48,400件 (巨大隕石の落下による災害が題材)
しかし、『タイタニック』と『アルマゲドン
』の組み合わせは、上記の組み合わせのどれよりも、検索件数が多くなります。
【タイタニック アルマゲドン】 ・・・
63,000件
2作品とも、自称シネフィルの一部からは「大味な映画」と非難を浴びている一方、映画を観て「素直に感動して」泣くのが好きなかたがたからは多くの支持を受けています。
肯定するにせよ、否定するにせよ、ひとまとめにされることが多い。
映像効果や音響効果に主眼を置いた映画の観方をより価値ある鑑賞方法とするなら、その価値観の是非はともかく、2作品を同じくくりに入れてしまうのはわからなくはありません。
「素直に感動して」泣くのが好きなかたは、主人公に感情移入し、共感して話の展開にはらはらどきどき一喜一憂して楽しむのでしょう。
が、この2作品、どちらにも共感できるかたを不思議に思います。
この2作品に共通点はあります。派手な見せ場として災害が描かれ、表面的な部分のストーリー展開は単純明快でわかりやすい。
しかし、その共通点は、映画の形式の部分です。
共感する対象となるキャラクターや、ストーリーの内容は、まるで異なっています。
ストーリーを簡単にまとめてみましょう。
『タイタニック』
封建的な家庭の娘ローズ(ケイト・ウィンスレット)は、母ルース(フランシス・フィッシャー)から、あからさまに男尊女卑な男キャル(ビリー・ゼイン)との結婚を強制され、自殺を選ぼうとするほど思い悩みます。
しかし、自立を望みながらも孤立無援だったローズは、モリー(キャシー・ベイツ)やジャック(レオナルド・ディカプリオ)ら、自分の強いられた境遇に対して理解を持ってくれるかたがたと出会います。
ローズは、彼らからエンパワーメントされ、母ルースや婚約者キャルやらの、しがらみの魔の手から逃げ切り、男社会に負けずに勇気をもって自己実現し、いきいきと生きてゆくのでした。
この映画の製作は、国連人権委員会でも、アムネスティでも、デルタGでもないようですが、まあ、こういう話です。
『アルマゲドン』
封建的な家庭の娘グレース(リヴ・タイラー)は、A.J.(ベン・アフレック)という男と恋愛関係をもっています。
あからさまに男尊女卑な父ハリー(ブルース・ウィリス)は、A.J.を嫌っています。
しかし、ハリーとA.J.は男性性に酔うという仕事を、危険な場所ですることになります。
A.J.と一緒に仕事をして、男同士の絆を確かめ合ったことで、ハリーは、はじめはいけすかなかったA.J.も自分と同じ男尊女卑信奉者であると認め、自分の所有物である娘グレースをA.J.に譲渡すると言い、男である自分に酔い痴れながら自爆するのでした。
この映画の製作は、KKK団でも、ネオナチでも、九州男児でもないようですが、まあ、こういう話です。
どちらも自己実現の話とは言えるでしょう。
どちらも単純な話です。複雑な内面など描かれません。
また、複雑な内面を描かないと価値が劣るとは思いません。
単純化することで、寓話やおとぎ話の類としての完成度が高めることもあります。
どちらにも、絶対的な差別主義者が登場します。
しかし、片方は、差別と抗うことで自己実現、もう一方は、差別を崇拝することで自己実現なのです。
『タイタニック』は、主人公ローズが差別者にツバを吐きかかけることを肯定的に描き、『アルマゲドン
』は、主人公ハリーが差別者として陶酔する姿を肯定的に描きます。
この両方に共感するというのはあまりに無理がありませんか。
この2作品両方に魅せられているかたは、描かれている内容などどうでもよく、感動しそうな雰囲気に乗せられて、涙しているのでしょうかね。
雰囲気。印象。イメージ。
真逆のことが描かれている『タイタニック』と『アルマゲドン
』の多くの扱われ方を見ていると、「愚かな」大衆を乗せるための、内実を伴わない印象操作による選挙戦略が、現社会に対して大変効果的なことがよくわかります。
ローズの母ルースは、キャルとの結婚は仕方のないことだと、ローズの幸せを願って、ローズに理解ある素振りで結婚を強要します。
ルースは、身近な誰のことも否定しません。ローズのこともキャルのことも。
誰も否定せずに、しかし、キャルの思惑通りに事は進むのです。
権力を持っているのがキャルだから。
はじめに提言したのが誰なのかは知りませんが、企業や、各種団体の、会合やワークショップなど、あちこちで、「他者の言うことを一切否定しない」というルールが流行です。
好印象を持たれやすいイメージのルールです。
しかし、『タイタニック』のルースの姿を見てみればすぐにわかります。
ルースは、誰のことをも否定しないことをもって、強く、ローズを否定します。
不均衡な権力構造がある場で、つまり、既に決定事項がある場で、否定を行わないということは実質、権力を持つ者の意見を優先するということになりがちなのです。
自分は何も悪いことをしてはいないというイメージ戦略でしょう。
計算ずくで選んだ立ち位置なのか、自らに付与したイメージに踊らされているのか、どちらなのかは知りませんが。
差別者の立場からも、被差別者の立場からも、良い印象を持たれながら、権力の維持に貢献します。
被害者に対して、大変だねと慰めながら、その加害者にも笑いかけて仲良くします。
暴力をふるった直後に愛を囁くような、DV加害者の印象操作にも似ています。
DV被害の渦中にいる者は、加害者や、中立を装うことで加害に貢献するかたを、「悪くない」と言いいがちで、加害者を責めるかたを拒絶しがちです。
そして、その後の状況の流れが加害者と被害者のどちらに有利に傾いても、誰も否定しない中立派のかたが中立というイメージで作り上げた既得権益は守られるのでしょう。
「他者の言うことを一切否定しない」という印象操作のルール。
かつてそれは、「こと無かれ主義」、「八方美人」などと呼ばれ、卑怯なことだと認識されていました。
「他者の言うことを一切否定しない」という印象操作のルール。
いまそれは、「多様性の容認」と呼ばれることすらあるでしょう。
しかし、多様性を認めない権力が幅を利かせている場所で、すべてを黙認してしまったらそれは、多様性を認めない環境を維持することへの貢献にしかなりません。
多様性の容認は、多様性を阻害する意見だけは否定しなければ成り立ち得ないのです。
ローズは、絶対悪のキャルを絶対否定します。
絶対善。格好いいロールモデルです。わかりやすいロールモデルです。
キャルのようなかたを見たら、ローズのように、顔にツバを吐いてやれば良いのです。
そうしないのは、悪役を悪役と認識していないのでしょうか。犯罪を犯罪と認識していないのでしょうか。
それとも、中立の、こと無かれ主義の、八方美人の、既得権益を失いたくないのでしょうか。
ところで、単純な勧善懲悪のこの物語は、単純さ故に、語るに値しないととらえる向きもあります。
ここで少し、劇中のローズとジャックの会話を引用しておきます。
ローズ「この船が港に着いたら、あなたと駆け落ちするわ」
Rose:
When this ship docks, I'm getting off with you.
ジャック「それはばかげてるよ」
Jack:
This is crazy.
ローズ「常識外れよね。だから、信頼できるの」
Rose:
It doesn't make any sense. That's why I trust it.
常識的なイメージは、知らず知らずの内に刷り込まれたもの故、妥当性を信頼できない。
だからこそ常識的でない選択を大切に思うなら信頼に足る。
この短い会話で語られるそんな見解は、映画全体を貫いています。
格好いいかどうかは意見が分かれそうなロールモデルです。わかりやすいとは言われにくいロールモデルです。
それが語るに値することか値しないことか、各々の鑑賞者によって、判断はそれぞれでしょう。
価値観は、人それぞれですから、何が正しくて何が間違いということはありませんよね(←八方美人な逃げ口上)。
あ! そうそう! いぬかわいいよー!
タイタニックの甲板を歩いていたフレンチブルドッグさん、アフガン・ハウンドさん、ワイアーヘアード・フォックス・テリアさん、無事でしょうか。
いぬってすてき! わんわん!
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ほんと、映画見ないから、毎回、いぬさんに紹介いただいて、ふ~~~んと勉強させていただいております。
そっかぁ、『タイタニック』と『アルマゲドン』ってそんな映画だったのかぁ。
って、思うのですが、あんまり見る気がしない。
「自称シネフィルの一部」の方々の評価に毒されているのかなぁ。
*「シネフィル」って何? って思って、ググってみました。へぇ、フランス語なのね「映画通」「映画狂」って意味なのね。ほんと、勉強させていただいております。