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人生(笑)だけが、私たちの宝物

2009年6月19日 10:00 いぬ
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[いぬのえいがひょう] vol.086

マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと (2008) Marley & Me

 

男性であり、異性愛者であり、白人であるため、自分自身や世の中に何の不都合を感じることも、何の疑問も抱くこともなく、社会から過剰に甘やかされて育ってきたジョンは、新聞社でコラムニストをしています。

やはり何の疑問も持たずに、制度婚をしたジョンは、家庭ではジェニーという白人女性と、職場では、女性を男性のセックスの欲望を満たすための道具としか見ないセクシストの白人男性の同僚と楽しい毎日を送ります。

ジョンとジェニーは自分たちの子どもを欲しいと思い、その前に、自分たちの子育ての予行練習として都合よく利用し尽くすためだけに、犬を飼うことにします。

選んだ犬種は、ラブラドール・レトリーバー。

物覚えが良く落ち着いた性質の犬が多いラブラドール・レトリーバーでも、子犬時代がやんちゃなのは当然。

やってきたマーリーは、ほんの少しだけやんちゃ度が過ぎたかもしれません。

マーリーは、他の犬や飼い主に喜んで甘えて飛びつき、顔を舐めてよだれまみれにします。

ジョンたちはそんなマーリーを見て、しかし、その素晴らしい愛情表現と向かい合うのを放り出し、人間同士で笑いあいます。

マーリーは、雷を怖がりパニックを起こして走りまわります。

怯えているマーリーの気持ちを慮るより先に、人間同士で笑いあいます。

 

ろくに躾も出来ない夫婦が育てると、子どもは問題行動が多くなっても仕方ありません。

しかしそれでもマーリーはたいした問題行動を起こしません。

マーリーは、人々から邪険に扱われることが多くてもなお、人々を信頼しきって伸び伸びと育っていきます。

 

ジョンは、マーリーの行動を面白おかしく新聞のコラムに書き、人気を博します。

ジョンは、充実した仕事と充分な収入を得ているというのに、更に貪欲に仕事での成功を夢見て、進路を悩みます。守銭奴です。

ジェニーは、そんなジョンが今後の生活を決めるポイントごとにさりげなくジョンの顔を立てて、白人男性の自己愛を満足させます。

やがてジョンとジェニーは子どもを作り、子育てで時間が取られるためと、更にマーリーを邪険に扱うようになります。

それでもなお、マーリーは、ジョンとジェニーを信頼し続けます。

ジェニーが悲しい出来事に直面したとき、普段は元気に飛び回ってばかりのマーリーなのに、そのときは大人しくジェニーの傍に寄り添い慰めます。

しかしジェニーは、そこに夫のジョンがやってくると、マーリーを完全に無視し、ジョンにしなだれかかるのです。

 

やがてマーリーは病気を患い、ジョンはマーリーを獣医に連れていきます。

獣医から「治る確率は10%」と言われると、ジョンは、獣医の顔だけをじっと見て、すぐ横の診察台で寝ているマーリーには殆ど目を向けずに言う。

「その10%って普通の犬ですよね? マーリーは普通の犬じゃないんです」

そして彼は、家に帰って妻には「全く問題ない」と伝えます。

肝腎なところで嘘をつきます。

 

マーリーは奇跡的に一命を取り留めます。

しかしジョンは、獣医からマーリーの病状がどういう生活をしたら悪化するかを知っていながら、注意を払わずそれまでと同じような飼い方を続けます。

案の定、マーリーは、病気をこじらせて倒れてしまいます。

映画ではそれまで、ジェニーの妊娠やジョンの仕事の悩みを丁寧に描写しているというのに、マーリーにどうしてあげられるかを悩む描写は全くありません。

ジョンたちは安楽死させることにします。

 

「マーリー、さよなら」 子どもたちはそう言って、マーリーの毛の匂いをニ秒ほど嗅ぎます。

 

獣医へは、ジョンだけが付き添って行き、ジェニーと子どもたちは自宅に残ります。

ジェニーたちは、マーリーが殺されている頃、元気な頃のマーリーが写ったビデオを見て感慨に耽ります。

「マーリーははじめから私達の家族だった」などと言って自己陶酔しながら、マーリーを看取ることは拒否します。

 

映画のはじめからおわりまで、ジョンとジェニーがマーリーの名前を感情込めて呼ぶのは、マーリーを叱るときだけでした。

 

そして映画は、ジョンとその家族が、マーリーの死後も満たされた生活を送ったことを描いて終わります。まるで、犬の生き死によりも、経済的に満たされた白人異性愛家族の生活が重要だとでもいうように。

 

邦題にもあるとおり、マーリーは本当に、「おバカな犬」でした。

自分を生活の飾りとして利用しているだけのジョンたちを、死に瀕してもなお完全に信頼し続けるなんて、どうしようもなくバカすぎる、素晴らしい犬でした。

 

marley02.jpg劇場公開時の日本版のキャッチコピーは、【キミがメチャクチャにした人生が、私たちの宝物。】というものでした。

本編を観た後に改めて考えるとこれは、映画の内容をとてもよく言い表しているコピーだと感嘆しました。

【人生をメチャクチャにしたキミが、私たちの宝物。】ではないのです。

【キミが、私たちの宝物】ではないのです。

【人生だけが、私たちの宝物】なのです。

【キミ】はどうでもいいのです。

 

それは、人間の人生はとにかく素晴らしいという、ヒト優位主義者による自画自賛です。

主人公たちは、制度婚した経済的に裕福な白人異性愛者。

被差別者の要素がない、すべてにおいて差別する立場のかたを主人公に据えたことは、ヒト優位主義を描くのに大変に効果的でした。

差別主義とは、帰属によって自分たちを肯定し、見下せる被差別者を作り出して自己肯定を過剰に深めるために利用すること。他者を、自分たちの生活を彩る道具として利用すること。

ジョンたち、ヒト優位主義者にとって、犬の生命はヒトの生活を彩る道具に過ぎないのです。

 

もしジョンたちが、奴隷制度が自明のものと扱われた時代に生きていたとしたら、奴隷を平均以上に酷使し虐待するまではないにせよ、奴隷制度自体を疑問に思うことはなかったでしょう。

奴隷の中には、奴隷制度について思索を深めるかたがいたでしょう。

 

奴隷と主人の関係には、きっとそういうケースが多かったように。

ジョンは、最後までマーリーを知ることはありませんでした。

マーリーは、ジョン以上にジョンを理解していたのかもしれません。

 

ジョンたちは、マーリーをもっとよく知ることも出来たでしょうか。

制度婚した経済的に裕福な白人異性愛者のヒト中心主義者が?

大変、難しいことですね。

 

あ! そうそう! あんたたちなんかより遥かに! いぬかわいいよー! あんたたちなんかより絶対に! いぬってすてき! わんわん!

 

******************************************************

 

<公式サイト>

『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』

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コメント(2)

キリハラ キリ :

いぬさん、はじめまして。

この映画、封切前に宣伝を映画館で見ました。いぬさんの映画評を読んで「・・・そんな映画だったの!?」と愕然としました。「人生をメチャクチャにしたキミ」って、人間側のセリフではなくマーリーの言うべきセリフですね。(となると人生ではなくて犬生かな。)

私はウサギを飼っています。子供の頃からウサギ好きで(飼育係とかやってた)、でも状況が許さずに飼えなかったのですが、ようやく飼うことが出来たウサギです。可愛いですがまるで無愛想です。人にもなつきません。マイペースです。

そんなウサギも6歳を越えて老齢期に入り、しばしば体に不調が出てくるようになりました。今月になってからも体調不良に陥り、何と治療費&薬代で11万円以上もかかりました!

もしかしてウサギにとっては安楽死のほうが幸せなの・・・?治療を続けるのは私の我がまま?自己満足?私のお財布だってキツイ!限界!?

でもとりあえず、元気を取り戻してきているウサギを見て、「やっぱりとにかく生きていてくれれば」と嬉しく思うのでした。私にとってウサギは子育ての予行練習でもなければ子供の代わりでもありません。(私は40代のシングルです。)生きていてくれていること、そのウサギを見ること、知ること、そのことが私の幸せです。だから私は今幸せです。

あとはウサギが幸せだと感じてくれているのかどうか・・・それが気がかりです。ペットウサギの幸せとは・・・?結構難しい問題だと思っています。

nosuma :

こんにちは。
>他者を、自分たちの生活を彩る道具として利用すること。

その見解、ワタシも最近じぶんのブログで似たような
観点からちょっとだけ書いてみたりしていました。

この記事の半分まで読んで、その都度のマーリーの、飼い主からネグレクトされる姿が目に浮かんで目頭が熱くなってしまいました。

イヌさんの視点は、ワタシの位置と極めて近いところが
あると過去ログを読んでいて思いました。
だから余計に黙ってみていようと思います。w

でも【鳥害】という表現はやめてくださいね。ww←根に持っている。

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